映画の国際共同製作が増加する背景とは そのメリットと日本映画界の課題を深田晃司監督に聞く

日本の大手映画会社とフランスの共同製作『よこがお』

 ところが最近、日本の大手映画会社も国際共同製作を視野にいれるようになってきた。日本の少子化やDVDの売り上げの低下などが原因で引き起こる、将来的な日本市場の縮小が原因だ。深田晃司監督作品においては、『淵に立つ』がカンヌ国際映画祭で受賞し、日本よりもフランスの方でより高い興行収入を得たこともあったせいか、新作『よこがお』では大手映画会社である「KADOKAWA」とフランスの制作会社「COMME DES CINEMAS」がタッグを組んだ。今回の国際共同製作に日本の大手が挑んだことを、深田監督は「原作もないオリジナルの脚本を国際共同製作で映画化することは、KADOKAWAさんにとってはリスクも高いはずだったと思います。KADOKAWAさんには漫画や小説など膨大な量のコンテンツが既にあるのに」と振り返る。

投資家、クリエイター、観客からの視点

 国際共同製作には経済的なメリットもある。複数の国から投資が集まることで投資額が増えて投資リスクが分散される上、自国以外の市場が見込めることから、市場の拡大も狙えるのだ。この市場の拡大は、映像作家のクリエイティビティにも繋がる。

「市場を拡大するということが作り手にとって最大のメリットです。原作のない長編映画というのはある意味、担保のない状態でリスクが高い。手間暇もお金もかかる長編映画を国をまたいだ合作という形にすることで、作り手は作りたい映画を作ることができる」

 また、深田監督はクリエイティブの面でも国際共同製作は「単純におもしろい」と語る。

「今回はポストプロダクションの音楽や編集でフランス人にかかわってもらったんですが、自分の育ってきた文化圏とはまったく違った文化圏の人々によって自分の作品が解釈され、自分が思ってもいなかった発想が入ってくるとクリエイティビティが広がります」

 では、国際共同製作は、観る側にとってはどのようなメリットがあるのだろうか? 国際共同製作作品の配給も手掛ける映画宣伝担当者によると、多文化的な視点の入った映画は物語に普遍性をもたらすという。要は、日本人だけが分かる文化や表現、あるいは商業的観点をこえて、世界中の人々が理解できるテーマ性が否定されずにもちやすいことから、グローバル市場で競争できる作品が出来上がるのだ。事実、深田監督の『よこがお』は、ある事件をきっかけに“無実の加害者”へと転落した女性の運命をとおして、冤罪、マスメディアの報道責任、LGBTQ、人生の不合理、家族や人間の絆など、国や人種をこえてアピールできるテーマを抱えている。

日本映画界の未来

 黒澤明、小津安二郎、溝口健二らが活躍した“第二の映画黄金期”と呼ばれる1950年代は、映画が大量生産され、大手の映画製作会社が映画館チェーンを直轄で独占していたハリウッドのスタジオ・システムと似た制度にそって、日本独自の映画文化がピークを迎えた。いまではこのスタジオ・システムは存在しないが、当時の“日本市場に向けた映画作り”という競争原理には、今もあまり変化がない。現在、日本の映画館に足を運ぶのは10代の女性が一番多く、20代女性、10代男性と続き、50代以上の男性の鑑賞率が最も低い。(※6)(※7)

 日本でアニメ映画や青春映画の製作本数が高いのは、鑑賞率の高い観客層をターゲットにした映画作りを最優先にしているからなのだ。

 しかし、製作側が観客動員数や興行収入ばかりを気にすればどうなるかーー。10代や20代向けの同じような映画ばかりが作られてしまう。映画の多様性は失われ、日本映画は単なる“商品“となり、グローバル市場での競争力や存在感も失ってしまうかもしれない。

 フランスや韓国とは異なり、 “芸術文化”として映画を守るために保護政策を打ち出そうとしない日本政府に対して、深田監督は最後にこう締めくくる。

「映画界全体が制度を変える意思をもち団結して政策提言を行わないと、行政は動かないでしょう。行政制度から変えていく。これがないと根本的改善は望めないと思います」

参考

※1…日本と海外の映画業界の”ざんねんな違い”。鬼才監督が語る – bizSPA!フレッシュ
※2…多様な映画のために。映画行政に関するいくつかの問い掛け - 独立映画鍋
※3…フランス映画の現実--意義の薄れる助成金制度 - ル・モンド・ディプロマティーク日本語・電子版2013年2月号
※4…国際共同製作の実際…経済産業省 UNIJAPAN
※5…Japanese Film Makers Find Opportunities in International Co-Productions - Variety
※6…第6回「映画館での映画鑑賞」に関する調査 - NTTコム リサーチ
※7…第7回「映画館での映画鑑賞」に関する調査 - NTTコム リサーチ

■此花わか
映画ライター。NYのファッション工科大学(FIT)を卒業後、シャネルや資生堂アメリカのマーケティング部勤務を経てライター に。ジェンダーやファッションから映画を読み解くのが好き。手がけた取材にジャスティン・ビーバー、ライアン・ゴズリング、 ヒュー・ジャックマン、デイミアン・チャゼル監督、ギレルモ・デル・トロ監督、ガス・ヴァン・サント監督など多数。Twitter:@sakuya_kono、Instagram:@wakakonohana

 

■公開情報
『よこがお』
角川シネマ有楽町、テアトル新宿ほか全国公開中
出演:筒井真理子、市川実日子、池松壮亮、須藤蓮、小川未祐、吹越満
脚本・監督:深田晃司
配給:KADOKAWA
2019/111分/カラー/日本=フランス/5.1ch/ヨーロピアンビスタ
(c)2019 YOKOGAO FILM PARTNERS & COMME DES CINEMAS
公式サイト:yokogao-movie.jp

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