マ・ドンソクが怒りをこらえ拳を固く握りしめる 『守護教師』で見せたスーパーヒーローではない姿

 この後、ユジンと行動を共にするうちに、この静かな町に巣食う理不尽な存在に気付くことになり、その中でギチョルは強い怒りの感情を持つこともある。夜な夜なだれかが黒塗りの車で連れ去られていたり、ユジンが捜索のためのチラシを貼ろうとすると、教師がとがめたり、また町の有力者の選挙演説に異を唱えたら、取り押さえられたり、警察がこの件に対してユジンの言い分を聞かず、独自で動こうとしていたり、ギチョルの上司である教師が、この件に触れようとすると「出る杭は打たれる」と忠告したり、町の中には、理不尽で薄気味悪い「全体主義」の空気が漂っているのだった。

 しかし、ギチョルが暴力で、拳で制したところで、構造的な悪は断ち切れるものではない。ギチョルが怒りをこらえて、拳を見えないところで固く握りしめるシーンにぐっときてしまった。

 本作には、憎たらしいという言葉では済まされない非道なキャラクターが出てくる。マ・ドンソクは、その体格からして、この映画に出てくるどの人物よりも力では勝っているだろう。劇中でも、チン・ソンギュ演じる地元のマフィアやその部下とは、見事なアクションを繰り広げる。この役がマ・ドンソクでなければ、ユジンを助けられないのではと思われるシーンもたくさんあるし、抑えていたものを爆発させるシーンもある。しかし、それでは解決できないもっと大きなことに挑むためにぐっと抑えらた感情も、本作の見どころであったように思える。

 『犯罪都市』『ブラザー』『ファイティン!』『ワンダフル・ゴースト』『無双の鉄拳』と、近年はまさに無双の活躍を続けているマ・ドンソク。今年は映画『悪人伝』でカンヌ国際映画祭にも出席、またマーベルの作品にも出演との報道もあった。これらの作品では、また力を存分に発揮するマ・ドンソクが見られるのかもしれないが、本作『守護教師』では、誰かのために怒り、でも己の力の持つ意味を考え、ぐっと耐える。そんな「一人の特別なスーパーヒーローでもない普通の男」の一面が見られたことも魅力であった。

■西森路代
ライター。1972年生まれ。大学卒業後、地方テレビ局のOLを経て上京。派遣、編集プロダクション、ラジオディレクターを経てフリーランスライターに。アジアのエンターテイメントと女子、人気について主に執筆。共著に「女子会2.0」がある。また、TBS RADIO 文化系トークラジオ Lifeにも出演している。

■公開情報
『守護教師』
8月2日(金)よりシネマート新宿・心斎橋ほか全国順次ロードショー
出演:マ・ドンソク、キム・セロン、イ・サンヨプ、チン・ソンギュ
監督・脚本:イム・ジンスン
提供:ニューセレクト
配給:アルバトロス・フィルム
2018年/韓国映画/韓国語/100分/シネマスコープ/5.1ch/字幕:矢口理恵/映倫G
/英題:Ordinary People
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公式サイト:syugo-kyosi.com

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