『さよなら、退屈なレオニー』は新たなティーン像を示す 主人公レオニーの鮮明さが灯す“光”

 父が重要な役割を担っているという点では、日本でも9月に公開されることとなった青春映画『エイス・グレード 世界でいちばんクールな私へ』(2018年)がほど近い。SNSに依存気味で現実の学校生活がうまくいかないケイラ(エルシー・フィッシャー)と、彼女を大切に思う父との対話は同作の見せ場の一つになっている。あるいは、同じく父が最大の理解者だった17歳を描いた『スウィート17モンスター』(2016年)も思い出される。ネイディーン(ヘイリー・スタインフェルド)は、優秀な兄がコンプレックスで、妄想と自己嫌悪の激しい女の子だが、それでも自分だけが不幸じゃないことを知ることで、世界を少しずつ許していく。彼女たちはそれぞれに世界に対して怒りや哀しみを抱え、それぞれの方法で闘い、折り合いをつけて大人へとなっていく。

 本作は多くの青春映画とは異なり、プロムにも行かなければ大きな非行にも走らず、初体験もしない。レオニーは派手な経験や大きな失敗では人生を学ばない。彼女の大きな魅力は、そんな聡明さにもある。ラインカーで真っ直ぐに線を引けるようになることや、ギターのコードを覚えながら一つずつ新しい音を知っていくこと、父との対話を通して自分自身を知っていくこと、そんな日常のささやかで丁寧な出来事の一つ一つが彼女を押し進める契機となる。二度繰り返されるバスに乗り込むシーンが予期させる、彼女の旅立ちを経た詩情豊かなラストシーンは、多くの人の心を揺さぶるだろう。誰かが勇気を出し一歩踏み出せば、その軌跡にはたしかに光が宿り、また誰かの心に光が宿る。そんな風にしてこの映画は、劇場を出たあとの私たちの心に光を灯してくれる。

■児玉美月
大学院ではトランスジェンダー映画についての修士論文を執筆。好きな監督はグザヴィエ・ドラン、ペドロ・アルモドバル、フランソワ・オゾンなど。Twitter

■公開情報
『さよなら、退屈なレオニー』
6月15日(土)新宿武蔵野館ほか全国順次ロードショー
監督:セバスチャン・ピロット
出演:カレル・トレンブレイ、ピエール=リュック・ブリラント
配給:ブロードメディア・スタジオ
2018年/カナダ/96分/ビスタ/英題:The Fireflies Are Gone
(c)CORPORATION ACPAV INC. 2018
公式サイト:http://sayonara-leonie.com

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