凶悪かつ滑稽に描かれる暴力と死 『スノー・ロワイヤル』は観客がツッコミ役を担う“参加型映画”に

 モランド監督は、本作で暴力と死を生々しく、しかし恐ろしくカジュアルに描いてくれる。その凶悪さと滑稽さはオリジナル以上かもしれない。どのキャラクターに対しても常に一定の距離を置いて、まるで定点観測を行っているような突き放した描き方をしている。顔のアップは少なく、登場人物が感情を爆発させるシーンも少ない。とんでもないことが起きているのだが、淡々と物語は進んでいく。登場人物は大真面目だが、それを捉える視点は常に一歩引いている。このため必死に奮闘する彼らの滑稽な点に目がいく。キャスト陣も脚本を読んだ際には、「笑っていいのか悪いのか分からない」という感想を抱いた者が多かったそうだが、それも仕方ないだろう。監督いわく「この映画の可笑しみは『これはコメディですよ!』と喧伝するのではなく、映画の内側から滲み出てくるものでなければならない。それは観客が自ら発見しなければならないことで、好きな時に笑ってくれれば良い」とのことである。いわばボケ倒しのツッコミ不在映画であり、観客がツッコミ役を担う観客参加型映画ともいえるだろう。

 観客にツッコンでもらうスタイルの映画であるから、もちろんボケの種類は多種多様、分かり易いものから細かいもの、残酷系、ベタベタなギャグまで、全編に色々なボケがある。個人的にはバイキングの息子が「小学生くらいなのに父親以上に人間ができている」というギャグが好きだった。息子がイジメを受けていることを知ったバイキングは「やり返せ!」と叱るが、息子は「やり返したら彼らと同類になってしまう」と寛容の精神を見せる。するとバイキングは「プレゼントした『蝿の王』を読んだか? あれを見習え!」と的外れな説教をブチかまし……。他にも、このバイキングの息子の絡みはキラりと輝くギャグが多く、この少年は影のMVPだろう。

 リーアム・ニーソン主演のアクション映画だと思って観に行くと、その期待は確実に裏切られるだろう。だが、「死」が生活の近くにある雪国で生まれたブラックな作品を期待して観に行けば、確実に満足できるはずだ。復讐・仁義・シノギの削り合い......こうした、男の浪漫と美化されがちな要素に徹底的に冷や水をぶっかけ笑う。意地は悪いが、その徹底ぶりが味わい深い。寒い土地からやってきた、冷笑の醍醐味を堪能できる1本だ。

■加藤よしき
昼間は会社員、夜は映画ライター。「リアルサウンド」「映画秘宝」本誌やムックに寄稿しています。最近、会社に居場所がありません。Twitter

■公開情報
『スノー・ロワイヤル』
6月7日(金)より、全国ロードショー
監督:ハンス・ペテル・モランド
出演:リーアム・ニーソン、ローラ・ダーン、トム・ベイトマン、エミー・ロッサム、ジュリア・ジョーンズ、ウィリアム・フォーサイス
原案:『ファイティング・ダディ 怒りの除雪車』
配給:KADOKAWA
原題:Cold Pursuit/2019年/アメリカ映画/シネスコ/119分/PG12
(c)2019 STUDIOCANAL SAS ALL RIGHTS RESERVED.
公式サイト:snowroyale.jp

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