マーベル、DCに続く第三勢力 従来の“ヒーロー像”を逸脱する「ダークホースコミックス」の魅力
また、ダークホースコミックスの映像作品は近年、Netflixの独占作品として、世界規模に配信されている。配信中の『アンブレラ・アカデミー』(2019-)は、マーベル・コミックでいうところの“X-MEN”にも似た特殊な能力者たちを描く。物語はこうだ。ある日、妊娠経験のない43人の女性たちが、特殊な能力を持った赤ん坊を突然出産するという奇妙な事件が起きる。億万長者のレジナルド・ハーグリーヴズ卿は、そのうちの7人を養子にし、世界を救うスーパーヒーロー集団“アンブレラ・アカデミー”を創設する。
しかし、作中で描かれるのは徹底して人間ドラマだ。闘いの描写がメインではない。そもそも、『アンブレラ・アカデミー』は7人の養子たちがそれぞれ大人に成長し、ヒーロー集団も解散となったある時点から始まるのだ。成長した7人にはほぼロクな奴はいないし、性格はバラバラ。薬物中毒者までいる始末だ。ダークホースのコミックスには、業界の定石を踏む“ヒーローもの”は少なく、倫理的なヒーロー像を大きく逸脱する、いわば“アンチヒーローもの”が多い。ここまでに紹介してきたダークホース映画のほとんどは、アンチヒーロー的なキャラクターを扱った作品がほとんどだ。下手をすればヴィランの定義に値する主人公までいる。世界にはヒーローとヴィランという明確な分け隔ては存在しないのだ。『ポーラー 狙われた暗殺者』(2019)の主人公がそれを物語っているように。
誰がヒーローで、誰がヴィランなのか。ダークホースのコミックスとその映画は、人間の心理に迫った中立性を描くものが多く、こうした性質は映像作品においても、先述したクリエイター・ファーストな方針によって見事に反映されている。メインストリームにおける映像作品では、メガホンを取る監督のカラーが画面の端々にまで滲んでいるが、ダークホースの場合は違う。原作者が持つ独自のカラーによって、彩度の高い着色がなされるのだ。スーパーヒーロー飽和状態ともいえる昨今、ダークホースのような従来のヒーロー性を持たない映画群は、近い将来、アメコミ映画業界を牽引する存在となるかもしれない。
■Hayato Otsuki
1993年5月生まれ、北海道札幌市出身。ライター、編集者。2016年にライター業をスタートし、現在はコラム、映画評などを様々なメディアに寄稿。作り手のメッセージを俯瞰的に読み取ることで、その作品本来の意図を鋭く分析、解説する。執筆媒体は「THE RIVER」「IGN Japan」「映画board」など。得意分野はアクション、ファンタジー。
■公開情報
『ヘルボーイ』
9月、TOHOシネマズほか全国公開
監督:ニール・マーシャル
原作:マイク・ミニョーラ
プロデューサー:ローレンス・ゴードン、ロイド・レヴィン
出演:デヴィッド・ハーバー、ミラ・ジョヴォヴィッチ、イアン・マクシェーン、サッシャ・レイン、ダニエル・デイ・キム
提供:ハピネット、REGENTS、ポニーキャニオン
配給:REGENTS
2019/アメリカ/英語/120分
(c)2019 HB PRODUCTIONS, INC.
公式サイト:http://hellboy-movie.jp/
■配信情報
『アンブレラ・アカデミー』
Netflixにて独占配信中
公式サイト:https://www.netflix.com/title/80186863