夕見子目線のもう一つの『なつぞら』 “2人目のヒロイン”に注目が集まる理由

 北大受験を志した理由については、「ホントは北大なんて行かなくても良いんだけどね」と言い、なつの前で本音を漏らす。

 「だって負けたくないし!」「そんなの無理だとか、女のクセに無理だとか、そういう世間の目にさ」

 戦災孤児の辛い経験から、最初は他人の顔色を見て必死に生きてきたなつは、柴田家でたっぷりの愛情を注がれ、明るく健気に育った。だからこそ、夕見子のこの言葉の意味が、なつにはよくわからない。その一方で夕見子は、なつという眩しい存在の登場によって、たくさん葛藤し、ときには屈折もし、思考し続けてきたことが、次のセリフからうかがえる。

 「私は、なつみたいにわかりやすく戦ってないから。なつはどこに行ったって戦ってるっしょ? 私にはなーんもないから、自分が生きる場所は自分が選べるような人間になりたいのさ」

 祖父をはじめとして、家族の目がなつに注がれ続けることを、同性で同い年の夕見子が何も感じないわけはない。家の中での自分の立ち位置を考え、葛藤してきた結果、勉強すること、自立することを考えたのであろう。

 本音を言えないなつの気持ちを察し、背中を押してくれる夕見子。しかし、ワガママに見えて、その実、客観性が強く物事を俯瞰で見ているタイプの夕見子が、「〇〇嫌い」「△△したくない」という否定の論法でなく、前向きに自分の生き方・生きる道を模索するようになったのは、なつの存在があってのものだろう。

 ちなみに、他者の気持ちには敏感な夕見子は、幼い頃から、なつと天陽(吉沢亮)が互いを思い合う気持ちにすぐ気づき、冷やかしていた。しかし、おそらく本人はまだ恋を全く知らなさそうなところも、実に夕見子らしい。

 なつのカウンター的なヒロインとして視聴者の共感を集める夕見子が今後、どんな学問や人に出会い、どう変化していくのか。夕見子目線のもう一つの『なつぞら』に期待したい。

■田幸和歌子
出版社、広告制作会社を経てフリーランスのライターに。主な著書に『KinKiKids おわりなき道』『Hey!Say!JUMP 9つのトビラが開くとき』(ともにアールズ出版)、『大切なことはみんな朝ドラが教えてくれた』(太田出版)などがある。

■放送情報
連続テレビ小説『なつぞら』
4月1日(月)〜全156回
作:大森寿美男
語り:内村光良
出演:広瀬すず、松嶋菜々子、藤木直人/岡田将生、吉沢亮/安田顕、音尾琢真/小林綾子、高畑淳子、草刈正雄ほか
制作統括:磯智明、福岡利武
演出:木村隆文、田中正、渡辺哲也ほか
写真提供=NHK
公式サイト:https://www.nhk.or.jp/natsuzora/

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