特集上映、開催中! 『仁義なき戦い』『バトル・ロワイアル』など深作欣二監督の魅力を再考する

 70年代に日本映画の一時代を築き上げた“東映実録路線”を想起させる白石和彌監督の『孤狼の血』がちょうど一年前に公開され大きな注目を集めただけに、当時そのムーブメントを牽引した深作欣二監督の作品群を振り返るには絶好のタイミングといえるのではないだろうか。2003年1月12日、『バトル・ロワイアルⅡ 鎮魂歌』の撮影半ばでこの世を去った深作監督の全61作品の映画の中から46作品、またテレビドラマ作品から2作品をラインナップしたレトロスペクティブ「映画監督・深作欣二」が現在、東京・京橋にある国立映画アーカイブで開催中だ。

 デビュー作の『風来坊探偵 赤い谷の惨劇』や代表作である『仁義なき戦い』シリーズはもちろんのこと、類稀なる傑作『狼と豚と人間』や『北陸代理戦争』に『県警対組織暴力』、さらには『蒲田行進曲』や『宇宙からのメッセージ』、カルト的人気を誇る『黒蜥蜴』といった作風の裾の広さを感じさせる作品を一挙にスクリーンで堪能できるとは、何とも贅沢なことだ(もっとも、『ジャコ万と鉄』が上映されないのは残念ではあるが)。その多くの作品を、つい数年前まで浅草の六区通りあたりの劇場で退色したフイルムの3本立てで頻繁に観ることができていたとはいえ、すっかり世の中から昔ながらの“名画座”がどんどん消えていく昨今、その再会を喜ばずにはいられようか。

『仁義なき戦い』(c)東映

 言わずもがな“バイオレンス映画の巨匠”と言われる深作監督の作品群は、現在でも多くの映画作家に多大な影響を残している。代表的なところでいえば、新作がカンヌ国際映画祭でプレミア上映されることが決まっているクエンティン・タランティーノ監督がまさにその1人で、ちょうど深作監督が亡くなった年に発表した『キル・ビルvol.1』では冒頭に追悼テロップを流すほど。いわゆるプログラムピクチャーの時代に風穴を開けるような気迫に満ちた描写力と濃厚な人間ドラマ、そして映画という手法を通して“暴力”とは何を意味するのか投げかける。そして様々なテーマ性を備えながらも、映画が活劇であるという紛うことなき事実から決して目を背けることなく、雑然と入り乱れ合う登場人物たちをキャメラを介して捕まえていく。

 一寸の揺らぎもないその映画監督としてのビジョンは、ヤクザ映画のみならずすべての作品において一貫していたといえよう。それだけに『仁義なき戦い』シリーズをはじめ現在でも多くの作品が、リアルタイムではない世代へとしっかりと語り継がれているわけだが、その一方で徐々に存在感を失いはじめている作品も少なくない。筆者の世代にとって忘れがたい、深作監督の事実上の遺作『バトル・ロワイアル』ももしかすると、そのひとつではないだろうか。あの大騒動からもう19年、当時からその上辺だけのイメージだけがすくい取られ、今なお作品が持つ本来の意味をはき違えられてしまっている、あまりに悲運な作品のように思えてならない。

 高見広春(この作家は、同作以外に著作を発表していないはずだ)の極めてセンセーショナルな長編小説を映画化した同作。中学3年生のあるクラス42人が最後の1人になるまで殺し合うというプロットに、当時多くの大人たちが拒否反応を示し、その議論は国会にまで突入。90年代後半に社会問題とされていた少年犯罪を誘発するおそれがあるなどと言われ、国会議員向けの試写会が開催されたほどだ。そして2000年の12月16日に丸の内東映(現在の丸の内TOEI)をはじめ全国東映邦画系で封切られたわけだが、映倫の規定により中学生以下の入場を不可とするR-15指定(現在のR15+)を受け、話題に乗じて劇場に足を運ぶも入場を断られる中学生の姿が夜のニュースで報じられていたことを鮮明に憶えている(また、この時を境に映画のレイティングシステムについての認知度が急激に上がったことも見逃せない現象といえよう)。

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