『夏目友人帳』『となりのトトロ』など日本アニメ映画が中国で相次ぐヒット その社会的背景とは?

日本アニメは中国人にどう影響を与えたか

 ここまでは、中国における日本アニメの需要の経過を見てきたが、実際に人々にどのように受け入れられ、どんな風に影響を与えてきたのだろうか。

 『鉄腕アトム』が中国で放送されたのは、文革終了の数年後だが、当時の中国の視聴者にはどのように受け止められたか、遠藤誉氏は前述の著書『中国動漫新人類』で北京大学の張頤武教授の言葉を借りて紹介している。

「80年代の初めに中国に入ってきた『鉄腕アトム』は、それそれは大きなショックを中国人に与えましたね。
<中略>
 まるで異次元の世界を見ているようで、中国の外を一歩出れば、『まったく異なる文化』と『自由な思想への飛翔』がこの世にはあるのだ、ということを、『アトム』は中国の人々に知らせました。『夢と善意と幻想と科学』という美しい世界と、何よりも多次元的な思考を中国人にもたらしたのです」(P248)

 やや絶賛しすぎではとこそばゆくなるが、日本アニメを始めとする外国作品が見せた世界観は、閉鎖的な文革時代とは全く異なる風を中国にもたらしたのは間違いない。現在の中国は科学的にも世界をリードする存在になりつつあるのだが、最初に輸入された日本アニメが科学の進歩を謳う『鉄腕アトム』であったことは偶然だろうか。

『劇場版 夏目友人帳 ~うつせみに結ぶ~』(c)YUKI MIDORIKAWA,HAKUSENSHA/NATSUME YUJIN-CHO Project

 そして、中国の経済発展と時を同じくしてネット時代となり、日本や他の先進国と同じように娯楽を求める若者が増加、その熱が海賊版の隆盛につながった。張教授は、中国のみならず、香港、台湾、韓国、さらには東南アジアにいたるまで、中産階級の若者の消費文化の根幹に、日本アニメから受けた発想があると言う(P253)。

 若い世代の日本文化への慣れ親しみは、日本全体への興味を間違いなく創出している。中国からの留学生や日本語を学ぶ学生の多くは、その動機に日本アニメが好きだからと答える。

 筆者は米国留学経験があるが、中国を初めアジアからの留学生のアニメ・漫画の認知度は非常に高かったし、多くの場面でアニメが会話のきっかけになった。アニメはある種、アジアの若者にとっての共通言語ともなっていることを実感した。

 こうして、長い年月を経て中国人の心に大きな影響を与える存在であったことが、今日の日本アニメの中国における興行力につながっているのだと考えられる。80年代、90年代に青春時代を送った世代も子どもを持つ世代になり、アニメイベントに親子2代で楽しむ姿も珍しくないようだ(※5)。

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