『アベンジャーズ/エンドゲーム』への期待 MCUの一大シリーズ10年の歩みを総括する
この期待はフェーズ1の最終段階、つまり2012年の『アベンジャーズ』で見事に叶えられる。ソーで登場した悪役ロキがニューヨークを襲撃し、それまで「主役」を張っていたキャラクターが一致団結して戦う。シンプル極まりない話だが、何せ全員が主役なのだ。しかも、それぞれ別の監督が手がけた作品の。『アイアンマン』の監督であるジョン・ファヴローはコメディ畑の出身、『インクレディブル~』のルイ・レテリエはリュック・ベッソン門下のアクション畑、『キャプテン・アメリカ』のジョー・ジョンストンはSF畑で、『ソー』のケネス・ブラナーはシェイクスピア作品を得意とする。傾向も何もかもがバラバラだ。ところがジョス・ウェドン監督は、何人もの監督が作り上げた作品世界を受け継ぎつつ、個性的な主人公たちを見事にまとめ上げ、魅力的に描いてみせた。『アベンジャーズ』は最初から最後まで大騒ぎのお祭り映画に仕上がり、世界中で大ヒット。集結したアベンジャーズの周りをカメラがグルグル回ったとき、それは数年間に渡る物語が結実した瞬間でもあった。ついでに言うと「日本よ、これが映画だ」というデカすぎる惹句は良くも悪くも話題となり、今なお「日本よ、これが〇〇だ」とパロディの定番になっている。映画が終わったとき、素直に「最高の最終回だ」と感心した。ここで終わってもいいと思ったが……。しかし、MCUは終わらなかった。ここから先が、いわゆるフェーズ2である。
フェーズ1の段階でMCUは過去に類を見ない映画だった。それを超えるのは並大抵のことではない。おまけにシリーズ映画のジレンマ、一見さんお断り感やマンネリ化といった問題もある。この問題はもちろんつきまとったが、ところがどっこい、MCUは新たな人材を得て勢いを増すことに成功した。のちにMCUのキーパーソンとなるルッソ兄弟、そしてジェームズ・ガンの加入だ。フェーズ2の重要作といえば、恐らく『キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー』(2014年)と『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』(2014年)になるだろう。ルッソ兄弟が手がけた前者は、過去作を踏まえながら、香港も真っ青の格闘アクションで観客を魅了。MCUの過去作品どころか、単体のアクション映画として極めて高いレベルの作品に仕上がった。ガンが監督した後者は、魅力的なキャラクターたちの大冒険をMCU史上、最もユーモラスに描きスマッシュ・ヒット。とりわけ後者は、今までのMCUとは関わりの薄い世界観を舞台にしたのも功を奏し、いわばシリーズへの“入口”としても機能した。そして再びのお祭り映画『アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン』(2015年)と新キャラクター『アントマン』(2015年)を経て、フェーズ2を終えた。フェーズ1~2を支えたジョス・ウェドンはマーベルを離れたものの、代わりにルッソ兄弟がシリーズのキーパーソンとなってゆく。
そしてやってきたのがフェーズ3、これが現在進行形の段階だ。フェーズ3の作品はどれもこれもフェーズ1~2以上に複雑に絡み合っている。フェーズ3の1作目に当たる『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』(2016年)は、事実上の“アベンジャーズ2.5”というべき内容だ(逆にいうと、この映画を観ておけばフェーズ3の大まかな内容は把握できる)。『ドクター・ストレンジ』(2016年)や、前作同様に既存の世界観との繋がりが薄い『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:リミックス』(2017年)は敷居が低いが、『スパイダーマン:ホームカミング』(2017年)、『マイティ・ソー バトルロイヤル』(2017年)、『ブラックパンサー』(2018年)、『アントマン&ワスプ』(2018)といった作品は、ある程度の予備知識が必要であることは否定できない。
しかし、それぞれ個性的な監督が単体の作品としても楽しめるように工夫しており、特に『マイティ・ソー バトルロイヤル』は過去最高の作品と言えるほどの快作に仕上がった。そして情報量が増して敷居が高くなりすぎる直前、マーベルは『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』(2018年)という衝撃作を発表。全てのキャラクターに見せ場を用意しつつ、MCUを最初から追いかけてきたファンから、いくつかは観ているというお客さん、これが初MCUですという一見さんまで、観客全員に「これどうなるんだよ!?」と思わせる強烈なクリフハンガーを用意したのだ。普通なら広がりすぎた風呂敷を畳もうとするものだが、ここに来てさらに風呂敷を広げた。おまけに物凄く綺麗な形で。まさに神がかり的なセンスと度胸である。