『なつぞら』草刈正雄の包み込む優しさが涙を誘った第1週 革新的朝ドラがスタート!

 泰樹がなつに投げかける金言は多い。中でも「一番悪いのは人がなんとかしてくれると思って生きることじゃ。人は人を当てにする者を助けたりはせん。逆に、自分の力を信じて働いていればきっと誰かが助けてくれるもんじゃ」という言葉は、第1話でなつに手を差し伸べる富士子(松嶋菜々子)に言った「お前は苦労しすぎて、誰んでも優しくしなければなんないと思い込んどるだけじゃ」の答えとも取れる。また、労働に対する対価は誰もが一度は経験する変えがたい喜びだ。なつは生き抜くためだけに靴磨きをし、その感慨を味わったことがなかった。しかし、働けば必ず報われる日が来るということを、泰樹はなつ自身が絞った牛乳から生まれたアイスクリームを通して知ってほしかった。そして、柴田家に対して気を遣っていることにも気づいていた。「もう無理に笑うことはない。謝ることもない。お前は堂々としてろ。堂々とここで生きろ」。子どもだろうと対等に向き合い、何でも我慢せずに言い合う。泰樹の厳格な態度は、なつに響き、彼女の瞳からは雪解け水のような涙が零れ落ちる。優しく包み込むような草刈正雄の演技に対し、自分の芝居に納得がいかず監督や草刈に志願して撮り直しをお願いしたという粟野咲莉には、天賦の才、そしてなつと等身大の演技へのひたむきさを感じさせる。

 『なつぞら』の脚本執筆を担当する大森寿美男は、なつを「人の心に流されながら、出会いと関わりのなかで、人生を見いだしていくヒロイン」と公式サイトのインタビューで答えている。それは先述した泰樹との出会いを始め、学校でノートに絵を描く山田天陽(荒井雄斗)に惹かれるなつの姿からも、彼女が流動的にみずみずしい感性を持ち生きていくことを予感させる。果たして、なつがアニメーターという夢の扉をどのように開いていくのか。半年に渡る『なつぞら』の世界観は、十勝の大自然のように限りなく広がっている。

■渡辺彰浩
1988年生まれ。ライター/編集。2017年1月より、リアルサウンド編集部を経て独立。パンが好き。Twitter

■放送情報
連続テレビ小説『なつぞら』
4月1日(月)〜全156回
作:大森寿美男
語り:内村光良
出演:広瀬すず、松嶋菜々子、藤木直人/岡田将生、吉沢亮/安田顕、音尾琢真/小林綾子、高畑淳子、草刈正雄ほか
制作統括:磯智明、福岡利武
演出:木村隆文、田中正、渡辺哲也ほか
写真提供=NHK
公式サイト:https://www.nhk.or.jp/natsuzora/

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