『PRINCE OF LEGEND』公開記念企画

『PRINCE OF LEGEND』評論家対談【後編】 「男の子同士の関係性は全員魅力的」

「お城に取り残された王子様」はどうなる?

成馬:『プリレジェ』を見ていて、1997年に放送された『少女革命ウテナ』というアニメを思い出しました。『ウテナ』は、鳳学園という巨大な学校を舞台にした少女漫画テイストの作品で、劇中では「薔薇の花嫁」と呼ばれている少女・アンシーを自分のものとするために、「デュエリスト」と呼ばれる生徒たちが決闘ゲームを延々と繰り広げているんですよ。決闘に勝利すると「世界を革命する力」が与えられると言われていて、その力を得るためにデュエリストたちは戦っているのですが、このあたりは「伝説の王子」になるために王子たちが戦う姿と重なりますよね。ただ『ウテナ』が『プリレジェ』と違うのは、天井ウテナという少女が「僕が王子様になる」と言って、決闘ゲームに参戦して、モノみたいに扱われていたアンシーを解放するという方向に向かうんですよ。宝塚や天井桟敷といった舞台のテイストをアニメに持ち込んでいて、現実に起きていることと心象風景の映像が並列的に描かれている前衛的な作品なので、内容を説明するのがとても難しいアニメなんですが、一言でいうと「王子様がお姫様を救う」という少女漫画的な物語を、シスターフッド(女性の連帯)によって解体していく作品だったんだと思います。だから最初は『プリレジェ』も『ウテナ』みたいになるのかなと思っていたので、「伝説の王子選手権」というゲームから果音が抜けだして戦っている王子様たちが寂しく取り残されるバッドエンドが思い浮かんだんです。

朱雀奏(片寄涼太)、京極尊人(鈴木伸之)

西森:新しい女の子が「伝説の王子選手権」に参戦して、その男同士の争い=ホモ・ソーシャルを一蹴すると。

成馬:そういう展開の方が現代的ではありますよね。『ウテナ』は90年代末に放送されたのですが、それって、『アナと雪の女王』以降のディズニー映画が最適解として現在、描いていることだと思うんですよね。王子様を必要としないお姫様が自立した強い女に成長していく姿を美しいものとして描くという。ただ、お姫様の自立と開放は描けても、お城に取り残された王子様がその後どうすればいいか? という問題にはみんな困っていて、『ウテナ』の幾原邦彦監督も王子様の問題だけは、その後の作品でもうまく答えを出せてないんですよ。4月から放送される幾原監督の新作アニメ『さらざんまい』は男の子たちの群像劇みたいなので、期待してるんですけど……。「お城に取り残された王子様の問題」は多分、今フィクションを作っている人たちがみんな頭を悩ませてる問題で、ディズニーも『アナ雪』以降、お姫様が頼ってくれなくなった王子様はどう生きたらいいんだろうということをずっと模索してると思うんですね。それを「王子が大渋滞!」という言葉が象徴していると考えると、『プリレジェ』はぞっとするくらい素晴らしい作品なんですよ。

西森:果音が、「あほくさー」って王子を残して一人どっかに行っちゃう、っていうのも終わり方としてはありですよね。最近『えいがのおそ松さん』を見たら、6つ子たちが、自分で自分を認めるというか、慈しむようなシーンがあって、そこだけ妙に感動してしまったんです。それを見て、『プリレジェ』でも、この感覚はあってもいいんじゃないかと思いました。取り残された王子たちが、女の子をまったく介さずに、自分で自分を慈しむか、もしくは王子たちは王子たちで自分というものを取り戻せばいいんじゃないかと。でも、それがもしかしたら『HiGH&LOW』(以下、『ハイロー』)なんじゃないかって気もします。『プリレジェ』は、ホモ・ソーシャルなだけじゃなくて、京極兄と京極弟の絆とかもありますし、そのわちゃわちゃ、ブロマンス的な絆がストーリー的な救いになりはしないか? とかも思うんですけどね。映画の終盤でも尊人(鈴木伸之)が竜のこと持ち上げてたじゃないですか。ライブでも、竜が尊人のこと抱っこしようとしてて、「重くて無理!」ってなって沸いていました。

【チーム京極兄弟】京極尊人(鈴木伸之)、京極竜(川村壱馬)

成馬:女性視聴者が男女のラブストーリーよりも、BL的な関係性を消費する方向に向かっているなら、イケメンドラマは形を変えるしかないんでしょうね。実際『プリレジェ』も男の子同士の関係性は全員魅力的だったので、もっとドラマで見たかったという思いはあります。

西森:それが、女性に消費されるためだけの関係性に終わるのではない方向になればいいんじゃないかなと。

壁ドンの解像度が上がった

成馬:それにしても、このドラマの絶妙な言語センスって何なんでしょうね(笑)。イケメンにささやかれた女の子の「耳で妊娠する~」みたいな反応が気になりました。あと久遠誠一郎(塩野瑛久)を紹介する時に「歩くWikipedia」と言うのが、聞く度にキャッチーだなぁと驚くんですよね(笑)。

西森:ほんとに名言がいっぱいで(笑)。ネット的な言葉をリアルタイムで入れてますよね。

成馬:あと、本編とあまり関係ないんですけど、カメラをつけて壁ドンされる女の子ってどういう気持ちなんだろうってのが気になって。「その仕事、何?」って、余計なことを考えながら見ていました(笑)。

西森:あそこで壁ドンされる女の子は、みんなを代表して壁ドンをされるけれど、その分、「いい映像とってこなきゃ!」みたいな気持ちだと思うんですよ。劇中にも「いい映像ありがとう」みたいなセリフもありましたよね。「ガチ恋」を越えて、「美しい体験をみんなが一緒に愛でられるように」みたいな感覚で楽しんでいるんじゃないでしょうか。

【チーム奏】朱雀 奏(片寄涼太)、久遠 誠一郎(塩野瑛久)、鏑木 元(飯島寛騎)

成馬:壁ドンの解像度が上がったってことですよね。「壁ドンが是か非か」みたいな話だけだったら「壁ドン、けしからん」という感じで今後消えちゃう可能性もあるんだけど、「世の中には、良い壁ドンと悪い壁ドンがあるんだ」となると意味が変わってくる。『プリレジェ』ではバリエーションが増えたことで、壁ドンという表現がとても豊かになっている。

西森:さきほども言いましたが、壁ドンというもの自体が、今は前後のストーリーが切り離された、“型”になっちゃってると思うんですよね。当初の「男の人のどうにもできない気持ちから出てしまった行動」みたいなのが全くなくて、人を胸キュンさせるための型の一つになっている。気持ちから出た行動だったら、点数がつけられないんだけど、型だから点数がつけられるんですよね。

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