『THE GUILTY/ギルティ』が問う、ワンシチュエーションの真価 観客の想像力を刺激する逸品に
さて、この映画を語る上で、“音”はなにより特筆すべき要素だが、あえてこの映画では“画”にも注視してほしい。主人公アスガーの一人芝居ともいえる本作。映画は、全編ほぼアスガーだけを映し出す。そんなアスガーは、質素な緊急通報指令室の中で、時には部屋の中で席を移動しつつ誘拐事件の解決に臨む。一歩も外には出ない。いわば密室劇だ。こうした密室空間の中でのカメラワークというのは、一歩間違えると映画として成立しなくなる。とくに本作の場合は、アスガーの毛穴のひとつひとつが分かるほど、極限まで被写体に近づく描写が多い。ゆえに“音”が主体という本作では、逆に“画作り”が最も重要で、手抜かりが許されない要素となっている。
同じ空間、同じ人物を88分間、淡々と映し出す本作は、撮影の手腕がダイレクトに試される。明暗のコントラストを駆使したライティング技術と、固定カメラによる鮮明な映像。さまざまな視点からの画作りと、観客を飽きさせないためのきめ細かな工夫が随所に散見される。
さて、スクリーンには、通報を受けるアスガーの表情が、ただ延々と映し出される。通話が切れたかと思えば、リダイヤルし、また通話が始まる。その繰り返し。画面上にはアスガーただひとり。共演する相手は電話の向こうだ。こうしたワンシチュエーションの映画には、過去にどんな名作があっただろうか。ダンカン・ジョーンズ監督の『月に囚われた男』(2009)では、月面基地という地球から遠く離れた空間で、主演のサム・ロックウェルが一人二役の好演ぶりを発揮した。『フリー・ファイヤー』(2016)では、登場キャラクターこそ多いものの、ボストン郊外の倉庫内という限られた空間で、ギャングによるトリガーハッピーな銃撃戦を終始90分間にわたって描いている。
ワンシチュエーション映画の大きな利点として、製作費の安さが挙げられる。大抵の場合はキャストが少ない上に、ロケーションもひとつの場所に限られるため、安く済む。なにしろ名作が多い、魅力的なジャンルと言えるだろう。こうしたワンシチュエーション映画の名作リストに、『THE GUILTY/ギルティ』が加わったことこそ、大きな事件ではないだろうか。
■Hayato Otsuki
1993年5月生まれ、北海道札幌市出身。ライター、編集者。2016年にライター業をスタートし、現在はコラム、映画評などを様々なメディアに寄稿。作り手のメッセージを俯瞰的に読み取ることで、その作品本来の意図を鋭く分析、解説する。執筆媒体は「THE RIVER」「IGN Japan」「映画board」など。得意分野はアクション、ファンタジー。
■公開情報
『THE GUILTY/ギルティ』
全国公開中
出演:ヤコブ・セーダーグレン、イェシカ・ディナウエ、ヨハン・オルセン、オマール・シャガウィー
脚本・監督:グスタフ・モーラー
製作:リナ・フリント
脚本:エミール・ナイガード・アルベルトセン
撮影監督:ジャスパー・スパニング
編集:カーラ・ルフェ
音楽:オスカー・スクライバーン
提供:ファントム・フィルム/カルチュア・パブリッシャーズ
配給:ファントム・フィルム
原題:The Guilty/2018年/デンマーク映画/スコープサイズ/88分
(c)2018 NORDISK FILM PRODUCTION A/S