音楽の世界を駆け抜けた冒険家ミシェル・ルグラン 映画音楽で開花させた才能を紐解く

ジャズへの愛と情熱

ルグラン・ジャズ+3

 映画音楽の仕事と並行して、ルグランは様々なジャズ・ミュージシャンと共演してジャズ・アルバムを発表した。その出発点となったの『ルグラン・ジャズ』だ。1958年、ルグランはアメリカを代表するジャズ・ミュージシャンを集めて、自身が編曲したジャズ・アルバムを作る企画に挑む。声をかけたのは、ジョン・コルトレーン、ビル・エヴァンス、フィル・ウッズ、ハービー・マンなど目もくらむような豪華なメンツ。なかでも、ルグランにとって憧れの人だったのがマイルス・デイヴィスだ。録音当日、マイルスはスタジオの扉の近くでリハーサルを静かに見守っていて、関係者は「彼は音楽を聞いて気に入らなかったら、スタジオから出て行って二度と戻らない」とルグランに囁いた。ルグランは神に祈る気持ちだったら、しばらくするとジャズの帝王は席に座ってトランペットを吹き、演奏が終わるとルグランに「君が望んだ通りの演奏だったかい?」と訊ねたという。『ルグラン・ジャズ』はジャズに捧げた花束であり、そこにはジャズへの愛と情熱が満ち溢れている。

 ルグランは音楽家としてスタートする時、クラシックの道を行くか、ジャズの道を行くかで悩んだという。そして、その両方の技術を活かすことができる映画音楽の世界で才能を開花させた。次々と溢れ出るような美しいメロディーや躍動感溢れるカラフルなアレンジは、聴く者の感情を揺さぶらずにはいられない。ルグランは「自分の可能性を試したい」と作曲家としては珍しいボーカル・アルバム『ルグランは歌う』を64年に発表。また。自伝的映画『6月の5日間』(89年)では監督に挑戦するなど、自分を突き動かす衝動や感情を音楽で表現してきた。華麗でありながら親しみやすく、繊細でありながらダイナミックな音楽は生の輝きそのもの。作家のフランソワーズ・サガンは「ミッシェルはすべてについて思いのままに、尽きることなく叫び声をあげる」と書いたが、ルグランの音楽はルグランの声であり、きっと天国から我々のために力強く叫び続けてくれるだろう。

■村尾泰郎
音楽と映画に関する文筆家。『ミュージック・マガジン』『CDジャーナル』『CULÉL』『OCEANS』などの雑誌や、映画のパンフレットなどで幅広く執筆中。

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