『映画刀剣乱舞』を傑作たらしめた小林靖子による脚本 “内と外”に向けた構造を読み解く

 最後にひとつだけ、映画の核心について触れたいと思う。先日ツイッターで、「日本には本当の意味で女の子が主人公であるアニメが少ない」という議論があった。ツイッターでは誰かがそうした問題提起をするたびに上を下へのドタバタ騒ぎが始まるのだがそれはどうでもよくて、映画を見た人はご存知のように、この映画にはたった一人だけ女の子が登場する。そしてもちろん、この映画の「本当の主人公」はその女の子なのである。小林靖子脚本が観客の胸を震わせ、映画会社が予算の見積に頭を抱え、若く美しい刀剣男士たちと本物の時代劇俳優がスキルの限りを尽くして入り乱れるこの102分の劇場映画は、たった一人の女の子に「世界の主人公は君だ。この美しくまた醜い巨大な現実の中心にいるプレイヤー、主(あるじ)とは君のことだ」と告げるための長い長いおとぎ話である。

 小林靖子という優れた脚本家がこの作品の後に何を書くのか、僕にはわからない。美しい歴史の天使、刀剣男士たちが別の時代に舞い降りる刀剣乱舞の続編(熱望は多いだろう。前述の雑誌のインタビューで廣瀬は「何でもできるじゃんと思った、どの時代へも行ける、現代や海外へも」と語っている。その通りだと思う)か、あるいは特撮か、まったく新しい大きな挑戦なのか。でもどんなジャンルのどんな作品であれ、おそらく小林靖子作品は今後もこれまでと同じように、たった一人の女の子を本当の意味で世界の主人公にするために書かれるのではないかと思う。そしてそれは、過去に書かれた男の子を主人公にした名作と同じように、男も女も、大人も子どもも勇気づけるはずである。

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■公開情報
『映画刀剣乱舞』
全国公開中
出演:鈴木拡樹、荒牧慶彦、北村諒、和田雅成、岩永洋昭、定本楓馬、椎名鯛造、廣瀬智紀
原案:『刀剣乱舞-ONLINE-』より(DMM GAMES/Nitroplus)
監督:耶雲哉治
脚本:小林靖子
配給:東宝映像事業部
(c)2019「映画刀剣乱舞」製作委員会
(c)2015-2019 DMM GAMES/Nitroplus
公式サイト:touken-movie2019.jp

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