光石研のトホホっぷり&ゲスト陣の適材適所が光る 『渋井直人の休日』のクセになる面白さ

 テレ東の木ドラ25で放送中の『デザイナー渋井直人の休日』は、『奥田民生になりたいボーイと出会う男すべて狂わせるガール』などで知られる渋谷直角の漫画を原作にした作品である。

 渋谷はフイナムのインタビューで、「この漫画は、もし自分が『センス売り』の方向に努力して行ったとしても、絶対こうなるだろうっていう発想がきっかけです。素敵!みたく思われるタイプの人になっていたら自分は絶対こういう所でつまずくし、こういう失敗をするだろうなぁという『妄想スケッチ集』みたいな」と語っているのだが、この「センス売り」の絶妙なラインが実にうまく描けているのが『デザイナー渋井直人の休日』だ。

 このドラマを見て、「あのファッション、実は頑張りすぎててダサいっていう目線もあるのに、あれをストレートにかっこいいって見る人もいるんだよね」と言っている人もいた。ファッションにそこまで詳しくない私は、渋井直人のダッフルコートにクラークスという出で立ちはストレートにかっこいいと思っていたが、そんな見方もあるのかと思える意見であった。

 しかし、家に帰ってもこの言葉について考えていて理解ができた。渋井直人が、1話で行きつけのショップで池松壮亮演じる店長との会話ならば、「実は頑張りすぎててダサいけど、ストレートにかっこいいと思う人もいるんだろうな」という指摘も理解できるのである。彼らは、ウェス・アンダーソンの映画について話していたのだが、内容ではなく記号だけで語る会話を意図的に描いていた。ファッションについても、「記号」としてまとっている部分が描かれるからこそ、ストレートにはかっこいいものではないのだ。このドラマは、こうした「記号」の持つ意味を、ファッションにしろ文化にしろ、きちんと、しかもさりげなく描けているのである。

 実際、渋井直人はこの「記号」のために、せつないことになる。自分のことをいいと思ってくれている川栄李奈演じる美大生の個展に行った際、その個展の会場には、自分と同じく、ダッフルコートにクラークスのまさにウェス・アンダーソン……、といった「記号」ファッションの男性たちがひしめいていて、打ちひしがれることになる……。しかし、毎回この、渋井持ち上げられる→渋井ちょっといい気になる→渋井打ちひしがれる、という流れが、わかっていてもクセになるのだ。

 そんなお約束を楽しみにさせてくれるのは、こうした細部を、演出の松本佳奈や、脚本のふじきみつ彦などが「わかった」上で成立させているからだろう。また、俳優たちの繰り広げる自然な会話劇もこのドラマでは重要だ。

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