木村佳乃×木村多江は正反対の“悪女”? 『後妻業』に至る2人の戦歴を振り返る

 一方の「“脱・薄幸”を宣言します!」と言う木村多江(公式ホームページより)。とは言いつつ、彼女はもはや薄幸ではないだろう。ドラマ『リング~最終章~』(フジテレビ系)の貞子役や初っ端に殺される母親役の大河ドラマ『巧名が辻』(NHK総合)、夫を戦争で亡くした妻役の朝ドラ『純情きらり』(NHK総合)、『アンフェア』(カンテレ・フジテレビ系)の家政婦役。その儚げな佇まいに加え、出演時間が少ない役にも関わらずこれでもかと言うほど悲しいエピソードを背負っている役が多かったことが、「薄幸女優」と呼ばれるようになった所以だろうが、映画『東京島』、ドラマ『上海タイフーン』『4号警備』(NHK総合)で見せていたのは、強く明るい女性像だ。

 そして、特に彼女の演じる役がより興味深くなっていくのが、2017年以降である。共に2017年のドラマ『ブラックリベンジ』(読売テレビ/日本テレビ系)と映画『あゝ、荒野』で演じた2つの役は、とても強いが、悲しい過去を背負った女性だった。彼女が演じきった夫の復讐劇は、木村佳乃の『僕のヤバイ妻』における派手で爽快な復讐劇とは違い、真っ黒な服に身を包み、敵をとことんまで追い詰めた先で、自身も新しい不幸と裏切りに追い詰められ、地を這うように苦しみぬきながら、それでも戦う復讐劇だ。そういった意味でも“ダブル木村”は正反対の魅力を持っていると言える。そして、『あゝ、荒野』で彼女が演じた、菅田将暉演じる主人公の母親役。夫を死に追いやった男の息子と自分の息子がボクシングで戦う姿を見て「殺せー!」と鬼の形相で叫ぶ母親の姿は、この映画のハイライトだったように思う。

 そして、2018年、ドラマ『あなたには帰る家がある』(TBS系)と岡田惠和脚本スペシャルドラマ『それでも恋する』(TBS系)。『それでも恋する』で演じた末っ子キャラの可愛らしい女性も魅力的だったが、やはり、特筆すべきは『あなたには帰る家がある』の綾子役だろう。奥ゆかしい“ザ・日本の妻”という雰囲気を見せながら、玉木宏を不倫の沼に引きずり込み、玉木の妻である中谷美紀と戦い、一途に彼女を愛する夫・ユースケ・サンタマリアを翻弄する。夫の横暴に耐える妻に見せかけて、実はしたたかで強情な魔性の女というギャップは、時にコミカルで、時にホラー映画を見ているかのようだった。

 木村多江が演じる女性はもう既に薄幸ではない。追い詰められれば追い詰められるほど這い上がっていく、したたかな強さを持っている。生命力に溢れた、それでいて世の男たちが放っておけない、最強の和風美人だ。

 艶やかな絶対的な悪女・木村佳乃を前に、したたかな悪女・木村多江は探偵・伊原剛志と共に、どう立ち向かうのか。

 女優2人の、戦慄のバトルの幕開けである。

■藤原奈緒
1992年生まれ。大分県在住の書店員。「映画芸術」などに寄稿。

■放送情報
『後妻業』
カンテレ・フジテレビ系にて、1月22日(火)スタート 毎週火曜21:00〜21:54放送
出演:木村佳乃、高橋克典、木村多江、伊原剛志、葉山奨之、長谷川朝晴、篠田麻里子、平山祐介、田中道子、河本準一、濱田マリ、とよた真帆、泉谷しげる
原作:『後妻業』 黒川博行(文春文庫刊) 
脚本:関えり香
演出:光野道夫(共テレ)、都築淳一(共テレ)、木村弥寿彦(カンテレ)
音楽:眞鍋昭大
企画・プロデュース:栗原美和子(共テレ)
プロデュース:杉浦史明(カンテレ)、萩原崇(カンテレ)、水野綾子(共テレ)
制作:カンテレ、共テレ
(c)関西テレビ
公式サイト:https://www.ktv.jp/gosaigyo/index.html

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