『シュガー・ラッシュ:オンライン』ジェンダーロールから自由に プリキュアとの共通点を探る

 ※この記事には『シュガー・ラッシュ:オンライン』のクライマックスのネタバレがあります。映画本編を観てから読むことをおすすめします。

 「男の子だってプリキュアになれる」

 12月2日に放送された『HUGっと!プリキュア』(朝日放送テレビ)42話「エールの交換!これが私の応援だ!!」で、男の子のプリキュア「キュアアンフィニ」が誕生したことが大きな話題になった。「女の子だって暴れたい」のコンセプトから始まったプリキュアシリーズは15年の歴史の中で、女の子に対する様々な固定観念を打ち破ってきた。そして、遂に男の子に対するジェンダーロールからの自由を描くようになった。次代を担う子どもたちに向けた作品だからこそ、新しい価値観を積極的に採用する同シリーズの姿勢は素晴らしい。『ズートピア』や『アナと雪の女王』に代表される近年のディズニー作品も、新時代の価値観を反映した作品を積極的に作っている。

 12月21日に日本でも公開の始まったディズニー映画『シュガー・ラッシュ:オンライン』も、そうした流れに沿う作品だ。そして、それは偶然か必然か、『HUGっと!プリキュア』42話とも方向性を同じくするものだった。本作は暗にこう言っていたように筆者には思えた。「男(の子)だってプリンセスになれる」と。

プリンセスのコードの変遷

 『少女革命ウテナ』(1997年放送)という作品がある。王子様に助けられた幼い女の子、天上ウテナは、王子様に憧れるあまり自分も王子様になる決意をする。中学生となり全寮制の学校に進学したウテナは、「薔薇の花嫁」と呼ばれる少女、姫宮アンシーを巡る決闘に巻き込まれる。アンシーを守るため、ウテナは決闘に挑み続けるが、同時にそれはお姫様を守る王子様になるということでもあった。

 ウテナは最終的には王子様になることができずに物語は終わる。「王子様ごっこになっちゃってごめんね」という痛切なセリフが胸を打つ素晴らしい作品だった。

 王子様はお姫様を守るもの。言い換えれば、王子様になるには守るべきお姫様が必要。そして、お姫様になるには助けてくれる王子様が必要。王子様とお姫様には明確に役割が存在し、長らくそれは表現コードとして定着していた。『少女革命ウテナ』はそのコードを自覚的に破ろうと試みた先進的な作品だった。

 ディズニー作品にもこうした強固なコードが存在している。萩上チキの著書『ディズニープリンセスと幸せの法則』によると、ディズニーは年代ごとに異なるプリンセスコードを持っているとし、それぞれコード1.0/2.0/3.0と3つに区分している。

 コード1.0は『白雪姫』や『眠れぬ森の美女』といった、王子様の助けを待つ「美しく従順で働き者」な女性像だ。受動的な姿勢で王子様の助けを待つのがプリンセスの物語上での役割だった。

 荻上によると、80年代後半から新たなプリンセス像が提示されたという。王子様の助けを待つだけでなく、自ら行動し、王子様を見つけに行くプリンセスが登場した。『リトル・マーメイド』のアリエルや『美女と野獣』のベルなどが代表的なキャラクターで、これがコード2.0だ。

 コード2.0の時代には、『アラジン』のジャスミンや『ポカホンタス』、『ムーラン』など非白人のプリンセスも登場した。2009年には初の黒人プリンセスのティアナ(『プリンセスと魔法のキス』)も登場している。

 受動的な1.0から能動的な2.0に変わっても、プリンセスは常に恋する女であり、王子様役が必ず登場した。男装して戦うムーランでさえ彼女が恋をする王子様役が存在する。『少女革命ウテナ』の脚本家、榎戸洋司の言葉を借りれば、「王子様というのは、女の子がお姫様になるために必要な装置」(『少女革命ウテナ脚本集』下より)であった。

 それがディズニープリンセスにおいて始めて覆されたのは、『アナと雪の女王』だ。この作品にはディズニー史上始めて2人のプリンセスが登場する。姉妹のエルサとアナはそれぞれ別々のプリンセス像を提示している。妹のアナは行動的で、コード2.0のプリンセス像に近く、クリストフという王子様役もいる。対してエルサは、一人で氷の城に閉じこもる。閉じ込められたプリンセスというと、コード1.0に近いようだが、彼女を助けに来るのは王子様ではなく妹のアナで、王子様役の男性キャラが存在しない。2017年日本公開の『モアナと伝説の海』のモアナも恋をしないプリンセスだった。これがコード3.0だ。

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