『死の秘宝』以来7年ぶり 『ファンタビ』D・イェーツ監督が明かす“ホグワーツ再登場への葛藤”
『ハリー・ポッターと不死鳥の騎士団』から換算すると、実に10年以上も魔法界に携わっているイェーツだが、おもしろいことにダンブルドアのキャスティングにおいて、魔法界のキャリアが長いからこその苦労もあったそう。
「ダンブルドア校長のイメージがこびりついていたので、僕の中で今回のダンブルドアも、円熟味のあるイメージがあり、当初違う俳優を想像していました。そんな中で、ローリングがすかさず、今度のダンブルドアは若々しくて小生意気でアンチで、っていう人なんだよという話をしたので、じゃあ全く違う別の世代の役者を配役しなくてはいけないんだなと考えを改めました。考え的にも感覚的にも自分の中でパラダイムシフトを起こさなくてはならなかったんです」
紆余曲折を経て、起用されたジュード・ロウ。イェーツはロウと、様々な話し合いを重ね、“若きダンブルドア”を作り上げたと語り、また今回のダンブルドアには悲劇性を打ち出す必要があったと明かした。
「彼とはダンブルドアの核となる“人となり”について色々と話し合いました。彼は、とても優雅で、知的でウィットに富んでいて、ちょっといたずら好きなところがあり、そういうキャラクターを作っているんだと。それともう1つ大事な要素だったのは、彼が悲劇性を打ち出さなくてはいけないという部分です。例えばダンブルドアは妹を亡くしています。自分自身がつらい幼少期を送ったというような環境の部分や、若き頃に“とある人物”と結んでいた関係がうまくいかずにあえなく破綻してしまった、そういう悲しみや悲劇性を持ち合わせているキャラクターなのでそこも重要視しなくてはなりませんでした。ジュードはダンブルドアのそういうあらゆる部分を全部抱き込んで受け入れてくれて、ものすごい責任をもって役を演じてくれましたよ」
ロウとのタッグでイェーツが最も印象的だったのが、撮影初日のことだったそう。なんと、あれだけのキャリアがあるロウから緊張の影が見えたというのだ。
「あれだけ経験があって自信のある役者なのにものすごく緊張してたんですね。『大丈夫?』なんて聞くと、『いや、あのダンブルドアを演じるわけだからちゃんとやらないとね、間違いのないようにしないといけないからやっぱり緊張しますよ』と言うんです。そんな彼を見てすごい印象的でした。ちゃんとやろうとしているんだということが良く伝わりました」
イェーツ含む、『ハリー・ポッター』からおなじみのスタッフも、本作から登場した新キャラクターを演じる俳優も全員本気で、この作品に挑んでいる。イェーツの言葉だけで熱気を感じる撮影現場だが、『死の秘宝 PART2』から約7年間のブランクを経て描いたホグワーツは、「里帰りしたような感覚」だったと振り返る。
「ホグワーツはセットをもう一度作り直さなくてはいけなかったのですが、ホグワーツの校舎というか、教室に立つのが実に7年ぶりだったので、里帰りしたような感覚に襲われました。やっぱりこういうセットだとか環境というのは本当に大事だなと改めて思いましたね。懐かしい制服やマントをエキストラの皆さんがつけていて、ジュードがダンブルドア先生として教室で教えているシーンを撮った際に、僕らとしても本当に魔法のようなシーンだったし、出演しているみんながすごくワクワクしていて、それがひしひしと伝わってくるようなとてもいい経験でした。そしてホグワーツに戻って若き日のダンブルドアを掘り下げることでまた彼の違う一面を探求できたので結果的には良かったと思っています」
ところで、『死の秘宝 PART2』の最後でホグワーツがどのように登場したか、皆さんは覚えているだろうか? 少しおさらいすると、ヴォルデモート卿との戦いを終え、ニワトコの杖の主人となったハリーは、ロンとハーマイオニーに見守られながら杖を折って橋から投げ捨てた。感慨深く印象的なホグワーツへ繋がるあの橋。『黒い魔法使いの誕生』でも1番にこの橋が登場するのだが、イェーツいわく重要な意味を含んでいるのだという。
「スコットランドの風景をバックにそびえたつあの橋は、見た目が本当に美しいし、間違いなくハリー・ポッターの中では重要な役割を果たしているシーンというか、セットですよね。『ファンタスティック・ビースト』では、あの橋のシーンはとても重要な局面で、大事なセットです。というのは今回の作品のテーマをそのまま体現しているからなんです。つまり、自分がどっちに立つか決めなくてはならない局面を描いています。橋の向こう側にはダンブルドアがいて、そして反対側には彼を怪訝そうに見る魔法省の役人がいて、その間はno man’s land(緩衝地帯)であると、そういうことを意識して俳優の立ち位置を決めています。やはりこういう話を展開させるには、こんなにふさわしいロケーションはないと思って使いました。過去に数回この橋を登場させていますけれど、やっぱり私にとってお気に入りのスポットの1つですね」
(取材・文=阿部桜子)
■公開情報
『ファンタスティック・ビーストと黒い魔法使いの誕生』
11月23日(金・祝)全国公開
監督:デヴィッド・イェーツ
脚本:J・K・ローリング
プロデューサー:デヴィッド・ハイマン
出演:エディ・レッドメイン、ジョニー・デップ、ジュード・ロウ、エズラ・ミラー、キャサリン・ウォーターストン、ダン・フォグラー、アリソン・スドルほか
配給:ワーナー・ブラザース映画
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