『アニゴジ』は“ゴジラ作品”としてどうだったのか? 3作かけて向き合った壮大なテーマ

人間の哀しい運命と、遺された希望

 神官メトフィエスらエクシフたちは、人類を供物として儀式に利用するため、ゴジラの脅威にさらされ無力感にさいなまれた者たちを、自分たちの信仰する宗教によって導こうとする。その教義とは、力を持たない自分たちが食物連鎖の下位にある状況を受け入れ、生物の格差を肯定して強者の意志に従うことで、ささやかな連帯の高揚を味わい一時の恍惚感を得ようという、犠牲的でいじましいものである。面白いのは、このカルト的な宗教の蔓延が、疲弊した現在の日本やアメリカの社会状況を戯画化しているように感じられるということだ。

 ゴジラとギドラの戦闘は、メトフィエスが見出したハルオ・サカキの内面で「絶望状況のなかで人類はどう生きていくか」という、精神世界の葛藤の末に決着がつく。そして物語は、賛否を呼びそうな衝撃的なラストを迎えることになる。

 ハルオの最後の決断が示すのも、やはりあらかじめ決められた運命に抗おうとする反逆精神であろう。人間はどれほど酸鼻をきわめた事態を経験しようと、すぐに同じ過ちを繰り返してしまう。何度も戦争を起こし、危険な兵器や技術を開発してしまう。もしそれが人間という種に与えられた宿命なのだとすれば、人類が自ら滅びることは不可避である。ハルオはそんな運命を否定し「自由意志」によって、そのループから逸脱する行動に出る。定められた運命を凌駕する知恵や意志の力こそが、欲望や習性という限界に打ち勝つ希望なのかもしれない。本作はテーマをそう結論づけているように思える。

 前述したように、本作、そして本シリーズは、ゴジラファンの観客が期待するような怪獣同士のバトル描写はあまり用意されていない。さらに宇宙を舞台にしたSF世界や、人間の存在をめぐる哲学的要素を楽しめなければ、面白さは半減するだろう。しかし、ここまで露骨に壮大なテーマや深刻な問題を前面に押し出し続けるゴジラ映画があっただろうか。ゴジラファンの望む分かりやすいサービスを提供せず、3作かけてじっくりとテーマに向き合うという試みは、むしろゴジラシリーズに、印象的でユニークな爪痕を残したように感じられる。

■小野寺系(k.onodera)
映画評論家。映画仙人を目指し、作品に合わせ様々な角度から深く映画を語る。やくざ映画上映館にひとり置き去りにされた幼少時代を持つ。Twitter映画批評サイト

■公開情報
『GODZILLA 星を喰う者』
全国公開中
監督:静野孔文、瀬下寛之
ストーリー原案・脚本:虚淵玄(ニトロプラス)
キャラクターデザイン原案:コザキユースケ
音楽:服部隆之
キャスト:宮野真守、櫻井孝宏、花澤香菜、杉田智和、梶裕貴、小野大輔、堀内賢雄、中井和哉、山路和弘、上田麗奈、小澤亜李、早見沙織、鈴村健一
主題歌:XAI「live and die」(TOHO animation RECORDS)
製作:東宝
アニメーション制作:ポリゴン・ピクチュアズ
配給:東宝映像事業部
(c)2018 TOHO CO., LTD.
公式サイト:godzilla-anime.com

関連記事