趣里が語る、女優の仕事と断念したバレエの夢 「後悔っていうのは絶対になくならないのかな」
「なんでけがしたんだろう」
ーー寧子は躁鬱という病気でしたが、病名がなくても皆さん「今日はやれるぞ!」という日や、どうしようもなくダメな日があると思います。趣里さんにそんな瞬間は?
趣里:もうそれの連続です。色々なことに対して自信はないです。ただ、1つみんなで何かを創るお芝居に対する思いというものは、強く持っているつもりです。でも、やっぱり人前に出ると緊張しますし、自分にコンプレックスもあります。日々、浮き沈みの連続ですね。
ーー今年は、テレビをつけたら趣里さんがいる印象だったんですけど、今でもそんな感情はお持ちなんですね。
趣里:確かに人に見て頂ける機会は、今年多くなった気はします。でも取材とかでも聞かれるんですけど、自分の中では舞台もドラマも映画もCMも、何も変わりません。1人で創るのではないっていう状態が好きだから、みんなで作品を創って楽しんでもらえるのであれば、どんなエッジの効いたものでもチャレンジしようと思っています。
ーーまだ実感は湧かない?
趣里:でもお手紙貰ったり、Twitterでいただくメッセージは、すごくありがたくて、本当に励みになっています。
ーーああ、羨ましい。そう言ってくれる人が、わたしの人生にも現れたら……(笑)。
趣里:そうですよね。だから本当に支えられていると感じます。誰か1人でも「観てよかったな」って思ってくれる人がいてくれたら、作品と向き合った意味があったなと感じます。でも、やっぱりお客さんと通じ合える瞬間ってわかるので、一緒に頑張りましょうみたいな気持ちでいつも挑んでいます。
ーー表に出ている人にも、弱い部分があるのだと思うと親近感が湧いて励みになります。
趣里:女優さんって強かったり、美しかったりするイメージがありますけど、わたしはそんなことなくて、1人で回転寿司とかラーメン屋に行くタイプなんです。慣れちゃったので、1人でなんでも大丈夫です。
ーー逆に1人の時間がないとダメですか?
趣里:それかもしれない。わたしは、皆さんが想像するようなキラキラした生活は全くしていません。でも、誰かに寄り添っていたい気持ちはあります。
ーー趣里さんも、けがでバレエを諦めた際、エンターテインメントが励みになったと聞いています。
趣里:バレエをやっているときから劇場に足を運ぶことがあったんですけど、そのときに衝撃的だったのが、岩松了さんの舞台でした。おもしろすぎて6回くらい観に行きました。そこから岩松さんの作品などを観に行くようになったのですが、バレエばっかりの生活だったので、そのときの感覚がすごく新鮮だったのを覚えています。それからもバレエ一筋でやってきたんですけど、後から思うとケガをしたときももっと頑張れたのかなって考えてしまうんです。痛いし、しばらく経っても治らなくて、当時は限界だなと思っていたんですけど。それから、しばらくどうしようもない時期が続いて、みんなが大学に行くんだなっていうのを知って、高卒認定を取って、大学受験をしました。そうすると、だんだん外の空気に触れて、新しいものを見てみようかなって気になるんですよね。大学も芸術学科で、おしゃれなフランス映画に触れてみました。私にとって映画って本当に日常を変えてくれる存在です。自分が辛いときに明るいものを観たら、ちょっと気持ちが楽になるし、表現するお仕事ってすごいなって感じたんです。で、もしかしたら舞台とかで、いつかバレエも活かせるかもしれない、ということでレッスンを始めました。
ーー実際、活かせてますよね! 趣里さんが踊るシーンをよく見かけます。
趣里:ありがとうございます。正直に言うと、今でも本当はけがしていなかったら、やってたはずだなっていうのは思っているんです。なんでけがしたんだろうって、あの頃に戻っちゃうときもまだあります。もしバレエを続けていたら、どういう人生だったのか想像しちゃいます。ただ、そういう経験があるのでずっとこの仕事ができるという保証はないし、どうなるかわからないなって思ってしまうんですよね。
ーー映画とかでバレエのシーンや音楽が流れると、胸が痛みませんか?
趣里:踊りたいんだけど、できないっていう気持ちが生まれますよね。で、バレエのドキュメンタリーを観て号泣したりします。
ーー『ダンサー、セルゲイ・ポルーニン 世界一優雅な野獣』ですね(笑)。
趣里:そうです! でも本当にあの方はバレエに選ばれた人だし、自分は違ったんだなと思いますね。街を歩いていて、ふいにバレエの音楽が流れると考えてしまいます。
ーーそれでも過去の経験を、今活かせられている趣里さんは美しいと思います。
趣里:そう思いたいっていうのが、正しいのかもしれないですね。たまにSNSや動画サイトのおすすめで、海外のバレエ動画が出てくるんですよ。見たいし好きなんだけど、「うっ」と感じることはあるから、後悔っていうのは絶対になくならないのかなと思います。その反面、そういう自分と付き合っていくしかないなっていう事も今は多少冷静に考えられています。
ーーじゃあ、バレエのエッセンスがあるお仕事って嬉しかったりしますか?
趣里:嬉しさ半分、怖さ半分です。やっぱりけがってかなり怖いんですよ。ねんざも癖になっていますし。でも軽く踊れるのは嬉しいです。