佐藤健は大切なものに気づくことができたのか 『億男』高橋一生が伝えたかった“無限の価値”

 佐藤健と大友啓史監督という『るろうに剣心』シリーズの黄金タッグによる映画『億男』は、ひょんなことから3億円を手にした男に劇的変化が訪れるヒューマン・サクセス・アドベンチャーである。主人公・一男(佐藤健)は、昼間は司書、夜はパン工場であくせくと働いては月に37万円を稼ぎ、別居中の妻と娘を養いながら、うち15万円を借金の返済に充てている。食事は牛丼チェーンで並盛り一択。ところが宝くじで3億円を当てたことで、これに唐揚げとマカロニサラダまでもがつけられるようになる。しかし当然、こんな慎ましい変化だけにとどまらない。

 一男はこの3億もの大金の使い道を、学生時代の親友・九十九(高橋一生)に相談する。そして招かれるまま、恐るおそる酒池肉林のパーティーへと足を踏み入れるのだ。しかし、身の丈に合わぬパーティー・ピープルのマネごとなどしてみたところで、堕ちていくのがオチだろう。案の定、九十九が3億円とともに消えてしまうのである。

 ここから一男のマネーを巡る冒険が始まるのだが、この冒険の終わりには、BUMP OF CHICKENによる主題歌「話がしたいよ」とともに、楽しそうな笑みを浮かべる男ふたりの旅の写真が映し出される。学生時代の一男と九十九のモロッコ旅行のものだ。しかし私たちは、本編で観てきた2人のその旅が楽しいばかりでなかったことを知っている。彼らふたりだけしか知りえない、ふたりだけで感じた時間、共有したものをだ。

 印象的なエピソードがある。モロッコで倒れた一男は、その拍子に露店の商品を壊してしまう。そして大袈裟に騒ぎ立てる店主に弁償料として36万4千円を請求された九十九は、言われるがまま、すっかり払ってしまうのだ。目を覚ました一男は、ふっかけられたのだと疑うが、九十九は意に介さない。とにもかくにも、倒れた友人を病院に連れて行きたかったのだという。もちろん、親友の身の安全は何ものにも代え難い。しかし一つの事実として、実際にはいくらだったのか分からぬ商品の価値と、一男の生命の価値が同等に扱われたのである。

 時と場合によってモノの価値は変わる。1本100円の水は、砂漠ではそれ以上の価値を持つだろう。そしてこのとき一男の生命の値段は、36万4千円だったのである。だが恐らく九十九は、たとえ1億であっても10億であってもどうにかしようとしたに違いない。九十九にとっての一男は、無限の価値を持っていた。

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