イーライ・ロス監督のパーソナリティとも合致 『ルイスと不思議の時計』のメッセージ

 しかし、そういう生き方にも希望はある。ジョナサン伯父さんとルイスのように、ツィマーマン夫人や、ルイスと同じく変わった感覚を持つ同級生のように、考えの近い者や、同じ情報を共有する者、共感し合える者同士が連帯することで、自分の個性を発揮したまま孤独に対抗することができるのである。

 原作と同じように、本作も、孤独な思いをしているかもしれない読者や観客に、この物語を伝えることで、優しくこう呼びかけている。「いまは寂しいかもしれないけれど、君のことを分かってくれる人は、きっと現れる。だから自分らしさを捨ててまで、周囲のみんなと合わせる必要はない。そして、自分の個性を伸ばすことで、自分らしい幸せを見つけてほしい」と。また、幸いにして多くの友達に恵まれている人にも、孤独な思いをしている人の気持ちを理解させようとしている。

 このメッセージは、世間から眉をひそめられることも多いだろう「ゴア映画」を、それでも撮り続けてきた、イーライ・ロス監督のパーソナリティとも合致する。変わった感性を持ったルイスが、ついに自分を完全に解放して魔法を使う瞬間は、最も熱量が上がる本作のクライマックスであり、その姿は滑稽で笑えるが、同時に深い感動をも与えられる。このように世間から異端視されはじき出されるような者たちが、その個性を活かして大活躍するというカタルシスを、監督がしっかりと表現できているのは、原作者や変わり者たちと同じ想いを、やはり根底に抱いているからなのではないだろうか。

 ただ、指摘しておかなければならないのは、原作のルイスが太めの体型であるという設定が、映画には引き継がれなかったことだ。これは興行的な事情が関係しているだろうことは言うまでもないが、作品のテーマを考えると残念なポイントである。『デッドプール2』(2018年)では、ふくよかな体型の少年が、主役に準ずる扱いで魅力的に描かれていたことを考えると、本作もそのようにできないことはなかったのではないかと思える。このような問題は本作だけでなく、多様性を目指すハリウッド全体の問題であろうし、日本も含めた創作物全体の課題であるように思える。

■小野寺系(k.onodera)
映画評論家。映画仙人を目指し、作品に合わせ様々な角度から深く映画を語る。やくざ映画上映館にひとり置き去りにされた幼少時代を持つ。Twitter映画批評サイト

■公開情報
『ルイスと不思議の時計』
全国公開中
出演:ジャック・ブラック、ケイト・ブランシェット、オーウェン・ヴァカーロ、カイル・マクラクランほか
監督:イーライ・ロス
提供:アンブリン・エンターテインメント
原作:ジョン・ベレアーズ『ルイスと不思議の時計』(静山社)
配給:東宝東和
(c)2018 UNIVERSAL STUDIOS AND STORYTELLER DISTRIBUTION CO.,LLC
公式サイト:lewis-movie.jp

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