“ギャグを感動に変える”脚本が見事! 『義母と娘のブルース』名台詞、名シーンの数々を振り返る

名台詞、名シーンの数々を生んだ、緻密で優しいアップデート力

 何より森下佳子の最大の功績は、原作の魅力を活かしながら、ドラマオリジナルの要素を加えることで、この『ぎぼむす』をより普遍的かつ多幸感のあるヒューマンストーリーに仕立てたことだ。

 第1話から頻繁に語られる“小さな奇跡”というフレーズは、ドラマ版『ぎぼむす』を語る上で欠かせないキーワードだが、これは原作にはないオリジナル。また、麦田がその小さな奇跡を運ぶ人として第1話から人知れず宮本家に関わり続けているのも、ドラマ独自のアイデアだ。

 また、麦田が元ヤンなのは原作通りだが、頻繁に言い間違いを繰り返すという設定はドラマオリジナル。第1話から言い間違いネタを随所に織り込むことで、「LOVEじゃなくてLIKEの方ッスから」と告白する麦田に、亜希子が「……そこはLIKEではなくLOVEの方では」とツッコミを入れ、「それはわかってるんですね! わかってるってことっすよね」と麦田が切り返す、微笑ましくもキュンとするプロポーズシーンが誕生した。『ぎぼむす』に登場する人たちがみな愛しくて仕方ないのは、原作をなぞるだけでなく、そこにどうやって命を吹き込むか知恵と工夫を凝らした森下の手腕があってこそだ。

 さらに最大の名アレンジとして挙げたいのが、第5話。退院した良一とみゆき、そして亜希子の3人が川の字になって布団を並べるシーンだ。このシーン自体、原作にはないドラマならではの描写なのだが、何よりも心を打ったのが、みゆきが眠りに就いた後の亜希子と良一の会話。ふたりは、良一が他界することを前提とした上で結婚した偽装夫婦だ。良一が全快したら、契約を継続する理由がなくなる。ふたりとも、そんな不安に揺れていた。だが、心に秘めた想いを伝え合うことで、初めてふたりは本当の夫婦になる。まずはこのやりとりをきちんと入れたことが、この偽装結婚を描く上で非常に大切なことだった。

 そして、気持ちが通じ合ったふたりは初めて唇を交わそうとする。が、間で寝ていたみゆきの寝相に邪魔され、断念。代わりにふたりはみゆきの両頬にキスをする。実際に唇を重ねるよりもずっと温かくて、家族の素晴らしさが伝わる、そんなキスシーンだったと思う。実は、原作では亜希子と良一のキスシーンはきちんと存在するのだが、ここは敢えて“家族3人で”という形にこだわったアップデートだったのだろう。そんな細かいところにまで行き届いた森下佳子の目配りが、誰もが幸せを感じられる『ぎぼむす』の世界を生んだ。

 もちろん原作には原作の魅力があるので、未読の方はこの機会にぜひチェックしてほしい。ドラマでは描かれなかった数年後のエピソードも登場しており、もうひとつの亜希子とみゆきの物語にほっこりさせられることだろう。あるいは原作を片手に第1話からもう一度見返してみるのもいいかもしれない。人生は、終わらない。亜希子とみゆき、そして優しい仲間たちが暮らす『ぎぼむす』の世界は、これからもずっと続いていくのだ。

■横川良明
ライター。1983年生まれ。映像・演劇を問わずエンターテイメントを中心に広く取材・執筆。人生で一番影響を受けたドラマは野島伸司の『未成年』。Twitter:@fudge_2002

■放送情報
火曜ドラマ『義母と娘のブルース』
出演:綾瀬はるか、竹野内豊、佐藤健、横溝菜帆、川村陽介、橋本真実、真凛、奥山佳恵、浅利陽介、浅野和之、麻生祐未
原作:『義母と娘のブルース』(ぶんか社刊)桜沢鈴
脚本:森下佳子
プロデュース:飯田和孝、大形美佑葵
演出:平川雄一朗、中前勇児
製作著作:TBS
(c)TBS
公式サイト:http://www.tbs.co.jp/gibomusu_blues/

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