さくらももこは“大小を行き来する”視点の持ち主だった 笑いでこわばりをほぐす名作群を振り返る
8月15日に原作者さくらももこが乳がんのため死去したことが明らかにされたのに伴い、アニメ『ちびまる子ちゃん』(フジテレビ系)の9月2日の放送内容が変更された。1990年1月7日に放送されたアニメ第1話のリメイクで、原作25周年記念として2011年10月に放送された「まる子、きょうだいげんかをする」(原作第3巻その17)を再放送したのである。アニメは、原作の順番通りに作られたわけではなかったということだ。
では、マンガのほうはどんなふうに始まったのか。『ちびまる子ちゃん』第1巻をめくってみると、話のその1は学校帰りの道に変なモノを売る人がいる「おっちゃんのまほうカード」だった。1965年生まれである作者の子ども時代をモデルにして、小学校3年女子の日常を描いた国民的人気マンガは、そうしてスタートした。
今読み直してみて興味深いのは、第1巻その2「宿題をためたまる子ちゃん」だ。夏休みの終わりにまる子は友だちや家族の手を借りて、ためていた宿題をなんとかかんとかやっつける。そんなまる子に周囲がツッコミを入れつつ進むドタバタ劇に、大人に成長した作者なのか天の声なのか、さらに上の目線からツッコミを入れる文章が挿入され(アニメ版ならキートン山田のナレーションで表現される部分)、笑いをとる作りになっていた。
一方、さくらももこの『ちびまる子ちゃん』に次ぐ代表作といえば、メルヘンの国に不思議な生き物たちが暮らしている『コジコジ』だ。このマンガの第1巻第1話「コジコジはコジコジ」は、主人公の宇宙生命体コジコジが、学校でちっとも勉強しないことがネタになっていた。先生に注意されても「えっ 悪いの? 遊んで食べて寝てちゃダメ?」と真顔で返す。そして、将来なにになりたいか問われると、「コジコジだよ コジコジは生まれた時からずーっと将来もコジコジはコジコジだよ」と、なにやら哲学的に深そうな答えをして先生を沈黙させ、同級生を感動させる。
普通の日常を生きるまる子の場合、勉強をしないのは悪いことだという意識がある。先生に注意されたくないだけでなく、同級生に笑われたくないという見栄もあるから、ズルをして夏休みの宿題を完成させるなど、なにかととりつくろおうとする。まる子には、自分を本当の自分以上に見せようと背伸びするところがあるのだ。それに対し、メルヘンの国にいるコジコジは、周囲の空気を読もうとしない。他人の目を気にせず、自分の思うままに行動する。そのズレぐあいが、笑いを呼ぶ。