トム・クルーズ『ミッション:インポッシブル』シリーズが、他のアクション映画と一線を画すワケ

 観客の度肝を抜く挑戦は回を増すごとに過激になっていく。公開前から多くのメディアで報じられ、シリーズを代表するアクションとなった飛行機の外壁にしがみついたまま離陸するシーンでは、7度の飛行を試みたそう。離陸してしまえば最後、撮影に失敗しても着陸までは機内に入ることすら許されず、もし鳥などにぶつかれば大惨事な違いなし。そんな決死の状況で本シーンは撮影された。世界的スターがなぜこんなにも身を投げ出すのか。ただの死にたがりなのか、生粋のクリエイターなのか。凡人の私には到底理解できないだろうが、とにかくトム・クルーズは身も心もイーサン・ハントなのだと、観客に証明していく。

 ここまでが、今作製作における前提だ。上がり過ぎたハードルをどのように飛び越えるのか、またはハードルの下を潜り抜けるのか。期待と不安が混在した心境で劇場に足を運んだファンも少なくないのではなかろうか。

 「観客はウソを見抜く」、本シリーズでスタントを自ら演じ続けるトム・クルーズの言葉だ。言葉の通り、自身で演じるスタントは観客にフィクションを感じさせないリアルを植え付ける。リアルを追求しすぎた結果、ビルジャンプのシーンにおいては足の指を骨折、その決定的瞬間が本編に採用されるという破格っぷり。もはや本作はフィクションの枠を飛び越え、ドキュメンタリーの世界にまで片足を突っ込んでしまっている。

 また奇しくもストーリーテリングにおいても、前述のトム・クルーズの言葉がカギを握っている。前作『ローグ・ネイション』から続投したクリストファー・マッカリー監督は、本作を撮影するうえで脚本をほとんど準備していない。クランクイン時には、脚本が33ページしかなかったとも言われている。撮影しながら展開を定めていく彼のスタイルが本シリーズに非常にマッチしたことも特徴だろう。演じているキャストたちですら今後どうなるかわからない(もちろんおおまかな予想はついているだろうが)、この事実がストーリーのリアルさをより一層引き立たせている。

 アクションにおいても、ストーリーにおいても、徹底されたリアリズムの追求を土台に完成したのが『ミッション:インポッシブル/フォールアウト』だ。同監督の『ローグ・ネイション』と比較すると、アクションとストーリーの振り回し具合が非常にシームレスで、1作の映画としての帰結性、イーサン・ハントの集大成としてまごうことなき傑作に仕上がっている。冒頭でも述べたように、御年56歳のトム・クルーズは、またしても自身へ課されたハードルを引き上げてしまった。製作スパンから逆算すると、次作では(あるとすれば)、還暦をすぎる頃だろう。果たしてイーサン・ハントが安息の眠りにつく日は来るのか。座して彼の今後の活躍を見届けたい。

(文=安田周平)

■公開情報
『ミッション:インポッシブル/フォールアウト』
全国公開中
出演:トム・クルーズ、サイモン・ペッグ、ヴィング・レイムス、レベッカ・ファーガソン、アレック・ボールドウィン、ミシェル・モナハン、ヘンリー・カヴィル、ヴァネッサ・カービー、ショーン・ハリス、アンジェラ・バセットほか
監督・製作・脚本:クリストファー・マッカリー
製作:J・J・エイブラムス、トム・クルーズ
配給:東和ピクチャーズ
(c)2018 Paramount Pictures. All rights reserved.
公式サイト:http://missionimpossible.jp/

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