村上虹郎の台詞に強いテーマを反映 『この世界の片隅に』が描く狂った戦争の中にある“普通”

 とはいえ、納屋での水原の台詞の数々は、この物語の持つテーマが強く反映され、とても重みのある言葉になっている。戦争の不条理さ、若くして死を覚悟しなくてはならなかった時代の辛さ。「普通であってくれ」とすずに語りかける水原は、狂った戦争の中で“普通”であり続けたいと願う、いたって“普通”の若者であったのだろう。では“普通”とは何か。それは人前でも感情をあらわにして喧嘩したり、笑ったり、風邪を引いてザボンをねだったりといった、主人公たちと北條の家族たちの光景そのものなのだろう。

 さて、先週は登場しなかった現代パートが今週は最後の最後で登場し、あれから73年が経った現代の広島、そして「原爆ドーム」が映し出される。そこで榮倉奈々演じる佳代の前に現れる“北條家の所有者”を演じているのは『ひめゆりの塔』や『東京物語』に出演した日本映画界のレジェンド的存在である香川京子だ。彼女がTBS系の連ドラに出演するのは実に21年ぶりのことだそうだ。

 「北條です」と挨拶する彼女が演じている役柄に、様々な憶測が早くも飛び交っている。現在86歳の香川の年齢から考えても、現代のすずさんではないかという憶測も可能ではあるが、最初の登場シーンで右手が印象的に映し出されたあたり(原作通りなら、今後の物語に関わるので深くは言えないところではあるが)違うのであろう。役名は“節子”だそうで、まだその名前は劇中に登場していない。もしかすると、アニメ映画版のクライマックスに登場した少女の可能性が一番高いかもしれない。

■久保田和馬
映画ライター。1989年生まれ。現在、監督業準備中。好きな映画監督は、アラン・レネ、アンドレ・カイヤット、ジャン=ガブリエル・アルビコッコ、ルイス・ブニュエル、ロベール・ブレッソンなど。Twitter

■放送情報
日曜劇場『この世界の片隅に』
TBS系にて、毎週日曜21:00~21:54放送
原作:こうの史代『この世界の片隅に』(双葉社刊、『漫画アクション』連載)
脚本:岡田惠和
音楽:久石譲
演出:土井裕泰ほか
プロデュース:佐野亜裕美
出演:松本穂香、松坂桃李、村上虹郎、伊藤沙莉、土村芳、ドロンズ石本、久保田紗友、新井美羽、稲垣来泉、二階堂ふみ、榮倉奈々、古舘祐太郎、尾野真千子、木野花、塩見三省、田口トモロヲ、仙道敦子、伊藤蘭、宮本信子
(c)TBS
公式サイト:http://www.tbs.co.jp/konoseka_tbs/

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