山崎賢人が食べる“おにぎり”の演出にも注目 『グッド・ドクター』はたくさんの愛を与えていく

 だが、湊は最初からずっと何も変わっていないわけではない。ただ純粋無垢な心を持った天使のような主人公が人の命と心を救い、反発していた周囲の人々が変わっていくという話では、ここまで心が動かされないだろう。湊の成長も、このドラマの肝である。その裏づけとして登場するのは、彼が「三角形だから面白い」と言っていつも食べているおにぎりの存在だ。

 第1話では焼肉屋でおにぎりを2つ注文し、「あげません、全部僕が食べます」と嬉しそうに食べている。第2話では焼肉屋のおにぎり2つのうちの1つを夏美にあげて2人で食べる。第3話では序盤におにぎりを食べている場面があるが、終盤はおにぎりではなく夏美にもらった棒アイスを食べている。だがその代わりに、湊に救われた母親(前田亜季)が娘の仏壇にスイカを供えながら、自分も微笑みながらスイカを食べる。このスイカは見事に三角形であり、その先端をかじる母親の姿は、“おにぎり”を食べている姿と重なるのである。それは、湊が修復して母親に渡した、亡くなった子供の着ていた服の赤色とも重なる。そして第4話では湊自身が、心を閉ざしご飯を食べようとしない女の子におにぎりを食べさせようとし、終盤は湊がおにぎりを食べている場面で、夏美がジュースをくれるのだ。

 「おにぎりを食べる」場面をまとめるだけで、こんなにも贈与が繰り返されている。そしてそれは徐々に進化し、おにぎりを1人で食べていた湊は、夏美と共有し、間接的に同じ三角形の形状をしたものを大きな喪失を経験した人に与え、次は直接的に患者におにぎりを与えている。これは、亡くなった兄や柄本明演じる院長から与えられた大きな愛を糧に生きてきた主人公が、自分の食べているおにぎりを分け与えるかのような身軽さで、多くの人々にたくさんの愛を与えていく物語なのだ。

 予告を見た限りであるが、第5話では、敏腕外科医であり、いざと言う時は湊といいコンビネーションを築いているようにも思えるが、なんらかの秘めた事情から湊に必要以上にきつく当たってしまっている藤木直人演じる高山の“秘めた事情”の全貌がようやく明らかになりそうだ。湊の心の中に、幼い頃に亡くなった、自分を守ってくれた兄がいるように、高山の心の中に抱き続けている弟がいる。この共通性は、高山と湊が葛藤を越えてしっかりと支えあう未来を期待せずにいられないが、それにはまだ時間がかかるのだろうか。

※山崎賢人の「崎」は「たつさき」が正式表記

■藤原奈緒
1992年生まれ。大分県在住の書店員。「映画芸術」などに寄稿。

■放送情報
『グッド・ドクター』
フジテレビ系にて、毎週木曜22:00放送
出演:山崎賢人、上野樹里、藤木直人、戸次重幸、中村ゆり、浜野謙太、板尾創路、柄本明ほか
原作:『グッド・ドクター』(c)KBS(脚本:パク・ジェボム)
脚本:徳永友一、大北はるか
プロデュース: 藤野良太、金城綾香
協力プロデュース:西坂瑞城
演出: 金井紘、相沢秀幸
制作:フジテレビ
(c)フジテレビ
公式サイト:http://www.fujitv.co.jp/gooddoctor/

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