日本勢が強いファンタジア国際映画祭、今年の結果は? 映画評論家・小野寺系がレポート

最優秀男優賞に輝いた『RELAXER(リラクサー)』とは?

 今回小野寺がチェックしたのは、上映作のなかで最も個性的と思われるアメリカのコメディー映画『RELAXER(リラクサー)』。汚く散らかされたリビングルームで、延々とTVゲーム『パックマン』をプレイし続け、ソファーに座ったままというルールを守りながら、256ステージ到達を目指す男の物語だ(物語といってもゲームをしているだけだが…)。

 スティーヴ・ブシェミを思い起こさせる、ぎょろっとした目が印象的なジョシュア・バージは、映画の最初から最後までゲームをし続ける男の役をユーモラスに、また悲劇的に演じ、今回最優秀男優賞に輝いた。

『リラクサー』監督来場

 ステージに運ばれたソファーに座りながら話すジョエル・ポトリクス監督(写真右)によると、本作は99年に実在のゲーマーが『パックマン』でハイスコアを記録したという出来事が基になっているという。また『パックマン』をやり続けるという内容は、部屋から出られないパーティ客という不条理な状況を描いた、ルイス・ブニュエル監督の『皆殺しの天使』の現代版ともいわれている。

 劇中では、クエンティン・タランティーノ監督やケヴィン・スミス監督作を思い起こさせるような、サブカルチャーのムダ話が飛び交っているように90年代のインディーズ映画へのリスペクトが感じられる。近年、映画では80年代カルチャーのブームが起こっているが、ぼちぼち90年代の空気を扱った作品が増えてきている。本作が伝えるのは、その波の到来でもある。

映画祭の観客

 ソファーに座りながらゲームをやり続ける男の悲劇が示すのは、まさにファンタジア国際映画祭に代表されるようなポップカルチャーに耽溺する、私を含めた観客たちの姿に重なる。狂ったように映画やアニメを見続けて一体どうなるのか?という漠然とした不安。でもそこには何か意味があるのかもしれないという、うっすらとした希望が同時にある。『RELAXER』が提示するのは、そんな我々のリアルな姿だった。変わってはいるが素晴らしい作品なので、『パックマン』を生み出した日本で公開されたら嬉しい。

【おまけ】映画祭メイン会場への行き方

 ケベック州は北米にも関わらず、歴史的な経緯からフランス語を公用語としている。文化的ルーツを守るため、看板の字もフランス語でなければならず、英語で表記する場合は、それより大きいサイズのフランス語の文字を併記しなければならないという法律まである。そのため、多くの日本人にとって、街の案内は分かりにくいかもしれない。

 タクシー以外では、地下鉄が便利。「ギー・コンコルディア(GUY-CONCORDIA)」駅を降りて、「メゾヌーヴ通り(Boulevard de Maisonneuve)」を北上すると、駅から徒歩で5分かからない場所に、メイン会場となる「コンコルディア大学」がある。芸術学部のある大学ということもあって、構内に複数の映画館があり上映会場として利用されている。会場のスタッフは学生ボランティアも多い。

 普段は大学として使われている会場なので、導線が悪く(私のように)迷う場合がある。ちなみに公式サイトの地図は、現在一部間違っているところがあるので、メインの上映会場以外での鑑賞は、インフォメーション・デスクなどで案内を受けた方が良いと思われる。

 比較的便利になった、カナダ・モントリオールへの渡航。観光地も多く、人も優しい街モントリオールで、ぜひ次回のファンタジア国際映画祭や、モントリオール世界映画祭を堪能してもらいたい。

■小野寺系(k.onodera)
映画評論家。映画仙人を目指し、作品に合わせ様々な角度から深く映画を語る。やくざ映画上映館にひとり置き去りにされた幼少時代を持つ。Twitter映画批評サイト

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