『四月の永い夢』朝倉あき×中川龍太郎監督が語る、同世代としての共感 「離れていることが美しい」

中川「“離れていること”が美しいと思う」

ーーポスタービジュアルにも使われている、桜と菜の花が同時に咲き誇った道を初海が歩いていくシーンが非常に美しく、強く印象に残りました。

中川:この作品はあのシーンありきでした。撮影は8月に行ったのですが、あのシーンだけは4月に撮らなければいけなくて。そのときはまだ脚本が改稿される前で、最初の段階のものだったんです。でも、桜と菜の花のシーンだけはどうしても撮りたかった。朝倉さんの白い肌と、黒い喪服と、桜のピンクと、菜の花の黄色。それがトラックバックしながら広がっていく。それはコンセプトとして、一番最初に思いついたシーンだったんです。あの場所を探すのはとても大変でしたけど。

朝倉:菜の花があるからこそ、桜もよりきれいに感じられるんですよね。現場にいても中川監督のロケーションに対するこだわりや、その場所の持つパワーを感じていました。その場にいる人が感じる感動がそのまま映像になるんだろうなという予感はしていたのですが、改めてスクリーンで観てみるとそれがうまく生かされていて本当にすごいなと驚いたんです。映像だけではなくて、キャラクターの物語に沿って美しい場所が引き立たされていたので、そこにも感動しました。

ーーちなみに、朝倉さんはこれまでの中川監督の作品に対して、どういうイメージを持っていたのでしょう?

朝倉:みんななんとなくは思っているけれど、はっきり形にしてこなかったことにスポットを当てて描こうとされている方だなと思っていました。それはなかなかできることではないですし、皆さんもう少し年を重ねてから普遍的なテーマに挑もうとするものなのかなと思っていたので、この若さでこれだけ何か伝わってくる作品を生み出せるのは、はっきりと中川監督ご自身の中で、きちんと言葉や形で答えを出す勇気があるからだと感じます。同じ世代としてエネルギーをもらえますし、そういう中川監督の熱に触れたら、私の中でもきっと何かが変わるかもという予感がありました。

ーー共感し合う部分もあったと。

朝倉:私は一方的にありましたね。そういうのを確認したことはないですけど……(笑)。

中川:僕も一方的にありましたよ(笑)。

朝倉:中川監督が作り上げた初海というキャラクターもそうですし、初海が染物工場で働く青年・志熊さん(三浦貴大)に出会って、彼の職場に行ってしまう感じも、私はすごく好感が持てたんですよね。

中川:これは世代が近いからなのか、自分の朝倉さんに対するシンパシーからくるものなのかわからないですけど、朝倉さんは自分の気持ちを熱く語る人ではなくて、僕はそれがすごく素敵だなと思っていて。感情を出すことや喋ったりすることは本来誰でもできることですけど、それを抑えること自体が若い世代の特徴みたいな部分もある気がして。世代で結ぶつけることもできますけど、役者さんとして、人間としての朝倉さんの魅力でもあると思うので、僕はそこに共感していましたし、憧れていた部分もありました。これまでの僕の作品は割と感情を出すものが多かったのですが、この作品は感情を抑制することを意識しました。それは世代としてもそうですし、人間としての朝倉さんへの共感があったからだと思います。

ーー最近は勢いのある若手監督が増えてきているイメージがあるのですが、その中でも中川監督はどこにも属さないというか、独自の路線を突き進んでいる印象を受けます。

中川:それはたまに言われますが、本来監督というものは分類できるものではないと感じています。監督をする以上は若いかどうか、どういう出自であるかは、少なくとも自意識のレベルでは全く関係ありません。

ーーなかなか強気な発言ですね。

中川:素晴らしい才能が同世代にいることは感じるし、それは世代が同じだからという言説とは別次元で良いことなんだと思います。それぞれが違うものを作っているわけなんであって、孤立した美しい島であるべきだと。学生の頃に映画祭で、石井裕也監督から「映画よりも大事なものがあるから映画を撮っているんだろ」と言われて、なるほどなと思ったんです。本当にそうだなって。映画を作っている人間ばかりと関わることで映画が目的化してしまうことを今は怖れたいと思います。

朝倉:私は結構同年代の方々を見るんです。“意識している”というとまたちょっと意味合いが変わってきますけど、私は未だに役者という仕事がちゃんと理解できていないので、周りの人がどういうふうにやっているのかとか、女の子ってどういう感じなんだろうかということは気になります。

ーー今回の撮影現場の雰囲気はどんな感じだったんですか?。

中川:この世で一番美しい言葉は“孤高”です(笑)。

朝倉:(笑)。私はちょっと寂しかったんですよ。意識していたわけではありませんが、あまり喋る気になれなくて。私はまんべんなく素敵なキャストの方々と関わる立場だったので、この機会にいっぱい何かをもらって帰ろうと思っていたんです。でもあまり話せなかったので……。

中川:僕はその感じが素敵だなと思ったんですよね。監督と役者の距離もそうだけど、役者さん同士が近すぎると、あまりいい気持ちになれないというか。離れていることが美しいと思うんです。だから自分も離れていたいところがあるし、役者さんに関しても離れている人が好きです。これまでご一緒させていただいたことのある池松(壮亮)くんも太賀も、ちゃんと孤立した精神を持っている人間でした。朝倉さんも三浦さんもそういうタイプで、ちょっと独特な場所にいる人たち。人と似ないということが実はすごく大事なことで、僕はそれがすごく素敵だなと思うんです。だから今後もそういう人を撮っていきたいと思っています。

(取材・文・写真=宮川翔)

■公開情報
『四月の永い夢』
5月12日(土)新宿武蔵野館ほか全国順次ロードショー
出演:朝倉あき、三浦貴大、川崎ゆり子、高橋由美子、青柳文子、森次晃嗣、志賀廣太郎、高橋惠子
監督・脚本:中川龍太郎
配給:ギャガ・プラス
(c)WIT STUDIO / Tokyo New Cinema
公式サイト:http://tokyonewcinema.com/works/summer-blooms/

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