『THIS IS US 36歳、これから』は、山田太一、坂元裕二作品に通じる? 巧みな脚本を分析

登場人物たちの背後にある“”歴史

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 本作の脚本の特徴として、まず挙げたいのは、その構成の“巧さ”だ。日本タイトルの副題にもあるように、“36歳”をひとつのキーワードとしつつも、実は本作のなかには2つの時間軸が存在する。いずれも“36歳”という年齢でありながら、ちょうど36年分の年月を隔てた2つの物語。ネタバレを最小限に留めながら言うならば、それは“過去”と“現在”の物語である。それを交互に描き出すことによって、視聴者は改めて目の前にある“現在”が“過去”の積み重ねの上に成り立っていることを知るのだ。

 そして、視聴者たちはいつしか目の前の人物や物事の奥底に存在する“深み”や“広がり”を想像するようになる。すなわち、その背後にある“歴史”を洞察するようになるのだ。「この人がこういう性格なのは、その過去と関係しているのではないか?」。本作を観ているうちに、視聴者たちはいつの間にか物事を一面的に捉えることをやめ、より注意深い洞察のもと眺めるようになっていく。そこがまず、本作の脚本の何よりの“巧さ”であると言えるだろう。

視聴者を惹きつける推進力

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 その脚本の“巧さ”として次に指摘したいのは、視聴者の興味を持続させる物語の推進力である。本作は、現在36歳となるケヴィン、ケイト、ランダルを中心とした“ピアソン一家”の物語である。けれどもそれは、ある家族を描いた“ホームドラマ”というには、さまざまな仕掛けが施されているのだ。たとえば、先述の2つの時間軸について、年代がテロップ表示されるなど、直接的に語られることはない。その時代背景や、会話の中に登場する人物の名前などをヒントに、視聴者のほうがそれとはなしに気づくよう、実に周到にエピソードが編まれているのだ。

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 さらにそれとは逆に、ふとしたシーンで視聴者が疑問を感じるような“仕掛け”も、本作には多々用意されている。「おや? あの人は誰だろう?」あるいは「彼は、結局どうなったの?」。その“過去”を知る“現在”の登場人物たちにとっては当然の事実を、我々視聴者だけが知らないのだ。その2つの時間軸が交わる地点には、果たして何があったのだろうか。36年の空白を埋める出来事を、視聴者たちは徐々に知ることになる。その一方で、過去の時間軸では知り得なかった事実を、現在の時間軸で登場人物たちが突如知ることもある。そのあたりの作りというか視聴者の興味の惹きつけ方が、この脚本はとにかく“巧い”のだ。

“会話”シーンこそが本作の見どころ

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 もちろん、すでに多くの人々が指摘しているように、本作の大きな魅力のひとつは、その印象的な台詞の数々にある。そのなかでもいちばん有名なのは、「どんなに酸っぱいレモンでも、レモネードを作ることができる」という、人生の艱難辛苦に直面した登場人物に、ある人物が投げ掛ける言葉だろう。その出来事をどう捉えるかは、結局のところ、その後の自分たち次第なのだ。あるいは「死は存在しない。“君”とか“彼ら”とかもなく、みんなひとつなんだ。始まりも終わりもない。今があるだけだ」といった哲学的な台詞など。

 そんな“名言”的な台詞が登場する場面こそが、実は本作のいちばんの見どころなのだ。このドラマを観ていてすぐに気づくのは、一対一の会話シーンが、通常のドラマに比べて、とにかく多いということである。夫と妻、兄と弟、生みの親と育ての親、果ては妻と夫の母親から、たまたまその場で知り合った第三者に至るまで、その組み合わせのバリエーションが、本作には数限りなく登場する。たとえば、仲間睦まじく過ごしてきた夫婦が、“子供を持つこと”についてそれぞれの思いを爆発させる場面。あるいは、同じ家に育った同い年の兄弟でありながら人種も性格も異なる2人が、お互いに対する積年の不満をぶちまける場面。

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 年代や性別はもちろん、人種や生い立ちの異なる2人が一対一の状況で率直にぶつけ合う言葉の数々は、きっと多くの視聴者の心に深く残ることになるだろう。さらに言うならば、そこで“言い捨て”のような形にならないのも、このドラマの大きなポイントのひとつだろう。最初は衝突した彼/彼女たちのやり取りは、多くの場合、その会話のなかで、それぞれの落としどころを見出すのだ。

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