The Wisely Brothers 真舘晴子の「映画のカーテン」第1回

The Wisely Brothers 真舘晴子の映画新連載スタート! 第1回は『希望のかなた』

「どうやって難民・移民問題をより身近に考えることができるか」

 現地の音楽だったり、また全然違うジャンルの音楽だったり、劇中で使用されている音楽もとても素敵でした。音自体が物語に寄り添っている部分がある。特に「この国」という歌が私は大好きで。歌詞は「湖のそばに 畑と粗末な小屋が一軒」というような状況を説明している歌い出しですが、そのシンプルな中に土地をおもう何か暖かさがある気がしました。YouTubeとかでも検索してみたり、今でもよく聴いている楽曲です。あとは日本の歌も使われていましたね。どうやって見つけてきたんだろうと思いましたが、寿司のシーンも含めて監督の日本への愛を感じることができました。

 特にクライマックスがこの映画の中で最も好きなシーンでした。こういう結末にたどり着くのかという驚きがあったんです。難民・移民問題という地球規模の大きな問題がある中で、私たちがどうやってその問題をより身近に考えることができるかということが、この映画の核にある気がします。主人公のカーリド自身もシリアの難民ではありますが、その周りの人たちの日常的で隔たりのない助けや優しさなど、小さなことがどんどん積み重なっていくことによって、改めて難民・移民問題だけでなく周りの存在との関わりかたを考えることができる。私たちは直接的に今すぐ何かができるわけではないけれど、困っている人に手を差し伸べたり話を聞いてあげたりすることで、もしかしたらこの作品のようにつながっていくかもしれない。そう考えると、ものすごく未来のある映画だなと思いました。

 あと、これは余談ですが、カーリドの妹のミリアムの表情がとても好きで。カーリドとミリアムがついに再会を果たしたときのミリアムは、全然うれしそうではないんですよね。でもそれも、内戦によって全てを失ったことの現状を表していて、胸にくるものがありました。ミリアムにとって、お兄ちゃんに会えたことはもちろんすごく嬉しくて温かいことだけど、いま起こってることに対して、すぐに喜んだり悲しんだりできない状況だという緊迫感が伝わってきたんです。このミリアムの演技がそのような現状を物語っている気がしました。

 映画って、登場人物たちの気持ちになることもできるし、その人の気持ちを客観的に見ることもできる。舞台となった場所にも行ったような気分になれるし、それが自分自身の経験にもなっているような気がするんです。自分たちの楽曲を作る上でも間違いなく影響が大きいですし、今回この作品と出会えたように、これからも映画との出会いを大切にしていきたいですね。

(取材・構成・写真=宮川翔)

■真舘晴子
The Wisely BrothersのGt/Voを担当。
都内高校の軽音楽部にて結成。オルタナティブかつナチュラルなサウンドを基調とし会話をするようにライブをするスリーピースバンド。
2014年下北沢を中心に活動開始。
2018年2月キャリア初となる1st full album「YAK」発売。
公式サイト:http://wiselybrothers.com/
公式Instagram:https://www.instagram.com/wiselybrothers/

■公開情報
『希望のかなた』
監督・脚本:アキ・カウリスマキ
出演:シェルワン・ハジ、 サカリ・クオスマネン
提供:ユーロスペース、松竹
配給:ユーロスペース
後援:フィンランド大使館
協力:国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)駐日事務所、特定非営利活動法人 国連UNHCR協会
推薦:カトリック中央協議会広報
2017年/フィンランド/98分/フィンランド語・英語・ アラビア語/DCP・35㎜/カラー/原題:Toivon tuolla puolen/英語題:The Other Side of Hope/字幕翻訳:石田泰子
(c)SPUTNIK OY, 2017
公式サイト:kibou-film.com

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