安定感のあった『わろてんか』、全てを覆した最終回の仕掛けを振り返る

 葵わかな主演のNHKの朝ドラ『わろてんか』が3月31日で放送を終了した。視聴率は常に20%前後をマークしていたが、最終回放送後の結果をみると平均視聴率は20.5%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)という、驚異の安定ぶり。内容的にもなんとも「安定感」のある、逆にいうと、引っ掛かりのない、濃淡の少ない作品ではあった。

 毎週何かしら問題や騒動が起こり、それがスピーディーにテンポよく進み、サクッと解決していく。それが見やすさであり、視聴率の安定感でもあり、いまひとつ盛り上がらなかった理由ではあると思う。そもそも吉本興業の創業者・吉本せいをモデルにしたといわれる作品のため、放送開始前には多くの人が「たっぷり笑える朝ドラ」を期待してしまった。

 しかし、これが大きな勘違いだということは、1週目でわかった。よく考えてみれば当たり前だが、一般にイメージされる「吉本興業」ができたのはだいぶ後の時代で、物語が描くのは「創業~草創期」。おまけに、タイトルも『わろてんか』=「笑ってください」で、「笑える」なんて言っていない。

 それどころか、幼少時のヒロイン・藤岡てんは、父・儀兵衛(遠藤憲一)から「笑い禁止令」を出される。「笑ってください」どころか「笑ってはいけない」からスタートしていたわけだ。そんなてんを「笑い禁止令」の呪縛から救ってくれるのが、後に夫となる藤吉(松坂桃李)。そして、今作の目玉、高橋一生演じる伊能栞は、意外にも2週目にあっさり登場する。

 実は、『わろてんか』の伝えたかったことは、最初の1~2週目にほぼ詰め込まれていた。

 一つは、葵わかなをめぐる松坂、高橋の三角関係(?)と、「松坂×高橋」「葵わかな×広瀬アリス」という恋敵ポジション同士の「友情」、それを見守る「幼馴染」(濱田岳)の構図だ。

 そして、もう一つは、最大のテーマであり、あっさり「ナレ死」した兄(千葉雄大)が、病床で、てんに語った言葉である。


 「笑うということは、人間だけの、特権なんや」

 「虫も動物も笑わへん。人間だけが笑える。何でやと思う? 人間は、お金や地位や名誉を競い合い、果ては戦争もする。アホな生き物や。人生いうんは、思いどおりにならん。つらいことだらけや。そやからこそ、笑いが必要になったんやと、僕は思う。つらい時こそ、笑うんや。みんなで笑うんや」

 てんが駆け落ちし、勘当された後に1度だけ会った父・儀兵衛(遠藤憲一)に尋ねられた言葉は「わろてるか」。さらに、自身が勘当した息子・隼也(成田凌)のもとに赤紙が届き、再会した際に尋ねた言葉「わろてるか」も、つながってくる。

 最初の1~2週と最終週にすべてが詰め込まれていたように見え、なんならそこだけでも良かったように思えたが、それを覆してくれたのが、最終回だった。

 戦後の焼け野原に仲間たちが再集結し、寄席を復興。芸人も裏方も総出で、北村笑店の物語を喜劇ショーとして上演する。それはまさしくみんながずっと『わろてんか』に求めてきた、待望の「吉本新喜劇」の原型だった。そして、ここで水を得た魚のように輝くのが、「亀さん」の内場勝則。

 朝からホッとするコテコテの笑いのひとときが、最後の最後についにきた嬉しさと、途中で脱落せずになんとかこの作品を完走できた喜びを、この最終話でしみじみ感じることができた。

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