山崎賢人、『トドメの接吻』で“過去の呪縛”から解き放たれるのか? 役柄を超えた演技を読む

 ホスト界にその名を鳴らす堂島旺太郎(山崎賢人)は、毎回キスをして一度死に、1週間前から現在を再スタートさせる。彼は目的を達するためには何度でもやり直す。しかし、“100億の女”である美尊(新木優子)を手に入れるためだとしてもあまりに執拗すぎないだろうか。どうも理由はそれだけではないらしい。未来を思い通りに変えても、旺太郎は時折悲しげな表情をみせている。その時、瞳は潤みがちだ。吸い寄せられるようにしてその奥を覗き込む。すると旺太郎が過去に執着する理由が少し見えてくる気がする。

 第6話の最後で旺太郎は衝撃の事実を知る。“キス女”宰子(門脇麦)が実は海難事故の時の少女で、そのために弟を失い、旺太郎を悩ませてきた記憶の元凶であったのだ。驚きを隠せない旺太郎の大きく見開かれた瞳の奥では過去の記憶が一気に甦る。瞳を潤ませながら、宰子に「つぐないのキス」を迫る時、旺太郎はどんな運命を感じただろう。それが別れの接吻となる。直後に暴漢に襲われ空しく倒れる旺太郎に宰子がいくらキスを繰り返そうと、すでに息はなく、感触もない。旺太郎は本当に死んでしまった。しかしそれでも彼はどうしても過去に戻らなければならなかったのだ。

 山崎賢人はこれまで“過去に何かを背負った男”を繰り返し演じてきた。映画『L・DK』(2014)での久我山柊聖、『ヒロイン失格』(2015)での寺坂利太、『orange』(2015)での成瀬翔、『オオカミ少女と黒王子』(2016)での佐田恭也、さらにテレビドラマ作品でも『水球ヤンキース』(2014)での三船龍二など、山崎賢人が劇中で演じるのは過去に大きなものを背負い、それが現在の葛藤になっているキャラクターたちばかりだ。未来を知りながら、それを変えるために何度でも過去に戻り、過去から再スタートしようとする堂島旺太郎というキャラクターは山崎賢人には適役といえる。そして旺太郎が特異なのは、死によって今度は自分自身が“過去の人”になってしまう点だろう。

 「彼は死んで過去の人になったんだ」。第7話で早々、尊氏(新田真剣佑)は美尊にそう言い放つ。彼はさらに続ける。「過去は変えられない」と。尊氏は知らないのだ。彼らの会話を盗み聞きしていた宰子が囁く。「まだ変えられる……」。しかし尊氏はどうしても旺太郎を「過去の人」にしたい。尊氏の振る舞いが横暴になれば、美尊の心もどんどん離れていく。そこで宰子は美尊に狙いを定め、死の接吻をする。旺太郎がいない今、美尊が1週間前にタイムリープする他ないのだ。

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