龍雲丸は“もうひとりの直虎”だったーー『おんな城主 直虎』全50回を振り返る

 井戸の向こうはもう一方の世界と繋がっている。それは亡き井伊谷の人々が生きる死後の世界であり、幼少期に戻った直虎たちが覗き込む、彼らのいない未来の世界だ。思えばこの物語の中心にはいつも井戸があった。それは井伊のご初代さまの伝説を示すものであり、亡き井伊谷の人々と生者が心を通わせる場所であった。

 最後に直虎は井伊谷を「表の世でうまくいかぬ者を逃がし、生き直す場を与え、世に戻るための洞穴のような役目を果たすところ」にしたいと思案する。明智光秀の遺児・自然という本来なら殺されていたはずの人物をも匿い、生かすことのできる場所。表の世と裏の世の中間部分。それはまるで彼らの象徴の地たる井戸そのものではないだろうか。

 印象的な場面がある。手作りの井伊の旗を掲げ、彼女を慕った村人たちが弔い行列を作る。直虎に向かって今後の豊穣を誓う彼らの姿が突如消え、そこに直虎が1人立ち尽くし、井伊谷の地を見つめている。

 この不思議な現象に既視感があった。33話の政次(高橋一生)の死の時、囲碁盤の前で直虎を嬉しそうに待ち、振り向く政次の目に直虎の姿は映るが、哀しみの表情を浮かべた直虎の目には政次の姿は映らず、2人で興じた碁盤だけがそこにあった。

 死者たちはその姿を、今を生きる人々の前に見せることはないが、確かにそこにいる。ラストシーンの手だけの直親(三浦春馬)と政次、そして少女のように無邪気に笑う直虎、ではなく“おとわ”が楽しく囲碁を打っているように、彼らは井伊谷の地に生き続ける。彼らの思いを担って直政となった、菅田将暉演じる虎松はじめ、表の世を生きる人々を見つめているのである。

■藤原奈緒
1992年生まれ。大分県在住の書店員。「映画芸術」などに寄稿。

■放送情報
『おんな城主 直虎』
総集編:12月30日(土)
第一章 午後1:05~午後2:00 「これが次郎の生きる道」
第二章 午後2:00~午後2:59 「直虎の覚醒」
第三章 午後3:05~午後4:30 「逃げるは恥だが時に勝つ」
第四章 午後4:30~午後5:43「井伊谷は緑なり」
作:森下佳子
出演:柴咲コウ/三浦春馬/高橋一生/柳楽優弥/菅田将暉/阿部サダヲ/小林薫
制作統括:岡本幸江
プロデューサー:松川博敬
演出:渡辺一貴、福井充広、藤並英樹
写真提供=NHK (C) 2018 NHK
公式サイト:http://www.nhk.or.jp/naotora/

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