学園ドラマ、“変化球”で社会問題描くのがトレンドに? 『明日の約束』と『先に生まれただけの僕』の新しさ
もう1作、櫻井翔主演の『先に生まれただけの僕』(日本テレビ、脚本/福田靖)は、私立高校が商社の系列にあり、その商社から教員経験ゼロの鳴海(櫻井)が派遣され、トップダウンで若い校長になるという設定。学生の定員割れもありえる人気の低い高校を、サラリーマン校長がどこまで立て直せるか。鳴海は会社員ならではの現役感で、生徒に「僕も借りたけれど、奨学金ってつまるところ借金だから、将来、返済するのキッツイぞー」、「3年生は授業改革に入れてもらえなかったって不満があるみたいだけど、そもそも社会に入ったら、公平になんか扱ってもらえないからね」、「はっきり言って、君たちの学力で入れる大学は、就活で不利。まず上場企業には入れない」(すべて意訳)などと言い、生徒に厳しい現実を教えようとする。よく聞いてみれば、家庭でも親が子にくどくどと言っているようなことばかりなのだが、年齢が近く大企業の商社マンである翔くん先生が言うと、説得力があるのだろうか。生徒たちは、自主的に高校受験生のスカウト活動をするほど、鳴海校長に協力的になった。
これまでの教育理念を打ち破る、理想も夢もない鳴海の言葉に「ここは学校ですから」と反発していた教師陣も、ひとり、またひとりと鳴海の側に立ち、授業を面白く改善していく。そして、教師としての能力に自信がない元自衛隊員の郷原(荒川良々)だけが、抵抗勢力として残ったという展開が面白い。郷原は「今の高校のレベルが低いからこそ、自分も教師として雇ってもらえている」と考える終身雇用制の弊害のような人物である。その彼を切り捨てるのか、それとも救うのかが、サラリーマン校長のドラマとしては、ひとつのポイントになりそうだ。
教師ものの歴史を考えると、鳴海も日向も『3年B組金八先生』以来の伝統であるクラス担任ではない点が新しい。『GTO』、『ごくせん』、『ハガネの女』あたりまでは、元ヤンキーなど、主人公の経歴が破天荒でありつつも担任であることが王道だったが、今回の2作では、これまでなら確実に脇役だった外野のポジション。だからこそ、担任教師が言えない思い切った提案もできるのだ。主人公が大学病院に雇われたフリーランスの外科医である『ドクターX』にも通じる作りだと言えるだろう。
これは実際の教育現場が、もはや担任教師では動かせないほど硬直したシステムになっていることの表われなのだろうか。そんな懸念も浮かんでしまうが、変化球を使ってでも、リアルないじめや奨学金の問題を取り上げた脚本家や制作者たちの心意気を評価したい。
こちらは余談だが、学園ドラマを見るときのお楽しみは、生徒役キャストの中から将来有望な若手俳優を見つけること。名作『3年B組金八先生』シリーズは言うに及ばず、98年版の『GTO』、『ごくせん』シリーズも小栗旬や松山ケンイチ、高良健吾など現在、主演を張るスターを輩出している。近年では米倉涼子の主演作『35歳の高校生』(13年)にも、菅田将暉、高杉真宙、野村周平、広瀬アリス、森川葵、山崎賢人が出演していて、この6人が同じクラスという、今ならありえない布陣だった。今クールは、原石探しと考えると、『先に生まれただけの僕』より『明日の約束』の方がだんぜん粒ぞろいという印象。バスケ部のキャプテンを演じる金子大地、マネージャー役の山口まゆ、学級委員長役の井頭愛海(朝ドラ『べっぴんさん』の娘役でも光っていた)の3人が、端正なルックスと演技力を兼ね備えていて、これから活躍していきそうだ。
※山崎賢人の「崎」は「たつさき」が正式表記
■小田慶子
ライター/編集。「週刊ザテレビジョン」などの編集部を経てフリーランスに。雑誌で日本のドラマ、映画を中心にインタビュー記事などを担当。映画のオフィシャルライターを務めることも。女性の生き方やジェンダーに関する記事も執筆。
■放送情報
『明日の約束』
関西テレビ・フジテレビ系にて、毎週火曜21:00〜放送
出演:井上真央、及川光博、工藤阿須加、白洲迅、新川優愛、羽場裕一、手塚理美、仲間由紀恵
演出:土方政人、小林義則
脚本:古家和尚
プロデューサー:河西秀幸、山崎淳子
制作著作:関西テレビ放送
制作協力:共同テレビ
(c)関西テレビ
公式サイト:https://www.ktv.jp/yakusoku/index.html
『先に生まれただけの僕』
日本テレビ系にて、毎週土曜22:00~放送
出演:櫻井翔、蒼井優、瀬戸康史、木南晴夏、森川葵、平山浩行、池田鉄洋、木下ほうか、多部未華子、井川遥、荒川良々、秋山菜津子、高嶋政伸、風間杜夫
脚本:福田靖
音楽:平野義久
チーフプロデューサー:西憲彦
プロデューサー:次屋尚、高橋史典(ケイファクトリー)
演出:水田伸生 ほか
制作協力:ケイファクトリー
制作著作:日本テレビ
(c)日本テレビ
公式サイト:http://www.ntv.co.jp/sakiboku/