リニューアルの先に何があるのかーーHulu於保社長に聞く、動画配信サービスの現状と今後
映画、ドラマ、アニメ、バラエティなど様々な映像コンテンツを定額で、しかも見放題で楽しめる動画配信サービス。Netflix、Amazonプライムビデオ、dTV、U-NEXTなどの大手サービスがそれぞれの色を見せているなか、日本テレビの子会社であるHJホールディングス株式会社が運営するHuluは、5月に全面リニューアルを行い、7月にはHulu,LLC(米国Hulu社)、ヤフー株式会社、東宝株式会社、讀賣テレビ放送株式会社、中京テレビ放送株式会社を引受先とした第三者割当増資を実施するなど、大きな動きを見せている。今回リアルサウンド映画部では、HJホールディングス株式会社代表取締役社長の於保浩之氏にインタビューを行い、このような動きの狙いや動画配信サービスを取り巻く現状に対する見解、さらに経営的な視点も含めた今後の展望などについて聞いた。
「僕らが目指しているのは、“百貨店”」
――今年5月、Huluはよりリコメンド中心のUIを採用するなど、より総合的な映像プラットフォームへと変化しました。リニューアルの狙いはどのような点にあったのでしょうか。
於保浩之(以下、於保):リニューアル前までの本国Huluのシステムに依存したやり方だと、どうしても自由度がなくなってしまうところがありました。何か仕掛けをしたいとはずっと考えていたのですが、本国の開発にお願いするとなるとどうしてもスピードが遅くなってしまって、日本の市場に合ったサービスにしづらくなっていました。なので、思い切って自前のシステムを持とうと。
――今回のリニューアルで特に力を入れたポイントは?
於保:ユーザーインターフェースのエディトリアル機能がポイントだと思っています。いわゆる“特集”ということになるのですが、ユーザーの方々にいろいろな作品を観ていただくために、どのようなカテゴリーでどういった作品を集めていくのが良いのかに注力しています。我々は、痒いところに手が届く、日本ならではの手作り感のあるオススメの仕方をしたくて、これを採用しました。ランキングや上位に表示するものなど、ある程度機械的な部分ももちろんありますが、見逃し配信作品、特集、Huluプレミア、ピックアップ、海外ドラマなど、基本的に編成部の人間が特集を組んでいます。
――リニューアル後、ユーザーの反応は。
於保:「前の方が使いやすかった」という方もいらっしゃいますし、「とても探しやすくなった」という方もいらっしゃいます。賛否両論ですね。「まもなく終了」や「公開終了」など視聴期限が出るようになったのは高い評価をいただいています。特にマーベル作品のような期間限定のものに関して、いつ配信終了になるのかがわかりやすくなったという声はたくさんいただきました。ユーザーの行動自体や特定のコンテンツが著しく伸びたという事例はあまりなく、これまでと同じように幅広いジャンルの作品をよくご覧いただいている方々が多いという印象です。
――Huluの特徴のひとつは、有料会員数154万7,812人(2017年6月末時点)、その中でアクティブユーザー数が多いことですね。
於保:この背景にあるのは会員の獲得方法だと考えています。会員獲得方法は沢山ありますが、幽霊会員が多くなってしまうような無理な会員獲得方法はせず、コンテンツの宣伝やサイトをしっかり認知してもらって、本当に観たい人に登録してもらおうということに注力しています。だから会員獲得のスピードはなかなか急速な動きにはなりませんが、長く使っていただける、本当にコンテンツ好きな人に集まってもらっているのは実感しています。
――リニューアルでは通信トラブルなどもあり、ユーザーからは不満の声も上がりました。
於保:これに関しては我々の勉強不足、告知不足なところがあり、ユーザーの皆さまには大変ご迷惑をおかけし、申し訳なく感じております。現在はシステム全体が安定的に稼働しており、もう大きなトラブルはありません。少しずつアップデートしながら、よりよい環境で使用いただけるように努めています。
――今回のリニューアルでは、これまでPCのみだったリアルタイム配信がスマートフォンやタブレットでも視聴可能になりました。
於保:スマホでもリアルタイム配信ができるようになったのは大きいです。BBCやCNN/USなどのニュースはライブ配信ならではですし、リアルタイム配信に関して意外な反応だったのが、昨年の『FIFAクラブワールドカップ』でした。鹿島アントラーズが頑張ってくれたという追い風もありましたが、Huluでは実況解説なし、現場のノイズだけでリアルタイム配信したんです。これが「実際に会場にいるみたいでいい」「地上波とは違った取り組みで面白い」とユーザーの方々に大ウケでした。9月に配信した『ワールドグランドチャンピオンズカップ 2017』では、本線でディレクティングされた映像に加え、ひとりの選手だけを追い続けたカメラや、バレーネットに付けたカメラなどを選択できる、「4 EYES for Hulu」というマルチアングル中継を行い、こちらも大好評でした。テレビ受像機でのリアルタイム配信は現状まだできていませんが、今後対応して近いうちにテレビ受像機でもリアルタイム配信ができるようにしていきます。
――スポーツとの相性もいいと。
於保:ただ、僕らとしてはHuluをスポーツ専門店にする気はありません。僕らが目指しているのは、“百貨店”なんです。もちろんスポーツ売り場も充実させたいですが、他の売り場も同様に充実させていかなければなりません。なので、他のジャンルでも少しずつ新たな取り組みを行っていきたいと考えています。