立川シネマシティ・遠山武志の“娯楽の設計”第21回

「字幕表示メガネ型端末」が示す、映画館の未来 立川シネマシティの実地テストレポート

 次に、この先の未来を考えましょう。

 まずは、アプリUDCastで字幕位置と文字サイズを変更できるようにするべきです。このことで、座席位置の問題がかなり解消されるはずです。観やすい姿勢の選択幅も増えます。ただこれを鑑賞中にどう操作させるか、というのは課題になりそうですが(現時点では誤操作を防ぐために、お客様に貸し出しする際は端末を操作ロックしてお渡ししています)。

 端末自体は…結局普及のことを考えると、いわゆるAR型ディスプレイと呼ばれる汎用的なものではなく、“字幕表示専用機”の開発を検討するべきではないかと思います。AR型のディスプレイの用途は、MOVERIOにしてもMicrosoftのhololensにしても、その公表されているイメージ映像からしてもわかるとおり、どっちにしろ最初からかなり限定的です。透過だからと言って、これを掛けて電車に乗ったり、街を歩いたりしている時に動画を楽しむという人は極々少数でしょう。だってスマホの画面でこと足りてしまいます。街ゆく人の戦闘能力を測る必要のある方も限られているでしょうし。そして没入感を高められるPSVRのようなものならまだしも、透過型のものをわざわざ家の中で掛けて映画やテレビを見ようともあまり思わないでしょう。

 多くの一般人が使うとしたら、博物館、美術館、動物園などでの音声ガイドの字幕版、海外演劇の翻訳、音楽ライブでの字幕表示、そして映画館でしょう。これには確実に需要があります。海外アーティストのライブのMCで、何を言ってるのかよくわかってないのにまわりに合わせて笑う振りをしたことのあるのは僕だけではないはずです。アプリを作って、会場の使用者に同時翻訳を表示させるのは難しくないはずです。

 もしブロードウェイやウェストエンドの芝居小屋でこれを貸してくれて日本語字幕が出るのなら、遠征も今よりずっと気軽に検討します。歌舞伎や狂言、文楽なんかは観光客集客につながるでしょうし、まず僕がつけて鑑賞したい(笑)。聴いただけではわからなくても、文字なら理解できるんじゃないかと。

 “字幕表示専用機”はAR型ディスプレイでもっとも需要があるものになる可能性があるのではないかと思います。動画を楽しむのでなければ、高解像度である必要はありません。ARのためのカメラも不要。機器を安価にできるでしょう。Bluetoothでワイヤレス化するのも、行き交う情報量が少なければより容易で精度も高くなるでしょう。もっと扱いやすくすれば、全世界の映画館、劇場、ホール、美術館、博物館などに売れる可能性があるはずです。

 聴覚障がいの方のための話題からズレてしまいましたが、やはり大きく現状を打開するには利用者のパイを増やすことに尽きると思います。現在はほぼすべての映画館の上映がデジタル化され、設備的にはどこでもいつでも邦画の字幕版上映が可能なのに、たいして上映館も上映回数も増えていかないのが目の前の現実です。

 テクノロジーがそろうだけではダメで、それを活かして持続可能なビジネスの仕組みを作るところまで持っていかないと、このメガネ端末も全国の映画館50カ所くらいに数台ずつ設置されて、ひっそりやってます、という状態で終わってしまうかも知れません。

 ここのところ増えている“リピート鑑賞”の促しとして、制作者の文字解説が流れるなど、健常者も楽しめる仕組みにもっていく。中国語、韓国語、英語、フランス語、スペイン語などの字幕も提供する。もちろん健常者は有料です。プラス300円とかで、しかもその金額の一部がこの機器の運営に活かされるとなれば、濃い映画ファンは倫理意識が高い方も多いですから、受け入れてもらえるのではないでしょうか。字幕製作のコストもまかなえます。

 都合のいいことだけを並べましたが、もちろん非現実的な点もあります。

 仮に字幕コメント付上映が大ヒットしたら、200台、300台というメガネ端末を劇場が用意するのか? こんなことはよほどの長期間の見通しがなければ成立しません。相当のコストになります。字幕コメント付上映ではなく、本来の聴覚障がいの方のための上映にしても、8割を超える邦画が対応したら、10スクリーンを超えるようなシネコンはいったい何台メガネ端末を用意しておかなければならないのか?

 ちなみにテスト運用では、1回の上映で3台までの貸し出しです。機器自体は8台お預かりしているのですが、1台はトラブル対応のスペア、そして充電が必要なので2回転分で8台というわけです。正式稼働したら、この台数ではとても足らないように思えます。では何台なら“足りる”のか? 難しい問題です。

 最終的にはこのメガネ端末は劇場でも何台かは用意しつつも、必要な方への購入補助を国が行って、個人持ちにするべきかも知れません。Bluetooth接続にして、あくまでも表示のみの端末にして、個人のスマホとつなげて観られるようにすれば、普及は進むのではないでしょうか?(hololensはBluetooth接続)

 ストレスレスに、広い層が利用できるAR字幕表示が普及する未来は、まだもう少し先になりそうですが、しかし確実に歩みは進んでいます。

 とりあえずシネマシティでは、未来を積極的に見据えつつ、これまで通り日本語字幕版上映を続けていきます(10月29日,、31日、11月2日にはあのチケット争奪戦になった【極爆】『シン・ゴジラ』の字幕付上映を再び行います)。

 来るべき未来が楽しみでなりません。
 映画館は、もっと面白くなれる。

 You ain't heard nothin' yet !(お楽しみはこれからだ)

(文=遠山武志)

■立川シネマシティ
映画館らしくない遊び心のある空間を目指し、最高のクリエイターが集結し完成させた映画館。音響・音質にこだわっており、「極上音響上映」「極上爆音上映」は多くの映画ファンの支持を得ている。

『シネマ・ワン』
住所:東京都立川市曙町2ー8ー5
JR立川駅より徒歩5分、多摩モノレール立川北駅より徒歩3分
『シネマ・ツー』
住所:東京都立川市曙町2ー42ー26
JR立川駅より徒歩6分、多摩モノレール立川北駅より徒歩2分
公式サイト:http://cinemacity.co.jp/

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