人間の役割をアンドロイドが代行? Huluプレミア『ヒューマンズ』は未来を予言する
人間の仕事が奪われた世界
じつは『ヒューマンズ』で描かれているような状況は、これからイギリスで実際に起きるのではないかと言われている。オックスフォード大学が民間企業と共同で研究した報告書によると、20年以内にイギリスの3人に1人の労働者が、ロボットの社会進出によって仕事を失うおそれがあるのだという。
もともと農業や工業にロボットが配備されることによって、“ロボットが人間の仕事を奪う”という事態は、確かに以前から進行していた。だが「AI(人工知能)」の技術革新により、これまで人間しかできないと思われてきた、その場その場での状況判断や、思考が要求されるような複雑な仕事が、機械にもこなせるようになっていくという。
最近では、絵画や小説などを生み出すAIまでが開発され始めている。人間の最後の砦だと思われている芸術分野すら、人工知能の方がうまくやれるような時代が来るかもしれない。映画・ドラマの批評までAIが搭載されたロボットがやり始めたらと考えると、筆者もおそろしくなってくる。この流れは、インターネットが普及している現代社会において、かつての産業革命よりもはるかに早いスピードで世界に飛び火していく可能性が高い。
そうなってくると人間とロボットの境界は、かなり曖昧なものになってくるはずである。人間と同等、それ以上の能力を持ったシンスのようなものが開発されたとき、人間の役割はどのように変化していくのか。そして、人類の文明はどうなっていくのだろうか。
かけがえのない存在となっていく他者
もう一つ、本作のシンスに対する市民の反応を象徴しているのは、イギリスの排他的な意識である。本作が放映されたのは、国民投票によってイギリスがEU(欧州連合)を離脱することが決定される前年であるが、その頃から社会に蔓延していた不安と、移民へと向けられる差別や偏見というものが、本作のなかでもシンスへの市民の憎悪として表現される。そして安全な場所を求めて逃亡する、感情を持ったシンスたちは、迫害や奴隷的な労働など人間扱いをされないような劣悪な環境から、よりよい生活を求めてやって来る移民の境遇に重ねられているように見える。
イギリス人も移民も、当然人間であるように、意識を持ち人間性を獲得したシンスたちもまた、それぞれに異なる個性を持ち合わせている個人である。確かにシンスは人間の仕事を奪うかもしれない。今までにないトラブルが引き起こされることもあるかもしれない。では、彼らシンスを社会から追い出せば、それでいいのだろうか。
本作で、ミリカン博士が壊れたシンスをなんとか廃棄処分から助けようと必死になるように、ホーキンス一家にとっても、アニータはなくてはならない、守らなくてはならない家族の一員となっていく。このことが示すように、そこで関係を築いてしまえば、もう彼らは社会の一部であり、守るべき仲間なのだ。本作『ヒューマンズ』がここで描いているのは、他者の心を想像する優しさを持つこと、そして他者をむやみに排除しない理性を持つことの重要性であろう。
■小野寺系(k.onodera)
映画評論家。映画仙人を目指し、作品に合わせ様々な角度から深く映画を語る。やくざ映画上映館にひとり置き去りにされた幼少時代を持つ。Twitter/映画批評サイト
■配信情報
Huluプレミア『ヒューマンズ』シーズン1
10月11日(水)、Huluにて独占配信開始
(c)Kudos Film & Television Limited 2015
Hulu:https://www.happyon.jp/humans