安藤サクラ『民生ボーイと狂わせガール』で“怪演” エッジの効いたキャラとの相性を読む
「奥田民生のような男に、なる!」と、海賊王目指す青年よろしく、妻夫木聡が高らかに宣言して始まる『奥田民生になりたいボーイと出会う男すべて狂わせるガール』。ぶっ飛んだタイトルからもなんとなく察することができる通り、主人公・コーロキ(妻夫木聡)が小悪魔女子・天海あかり(水原希子)に翻弄されながらも、民生のようになるべく、仕事に恋愛と、いくつもの荒波を乗り越えていく物語である。この荒波のひとつとして登場する安藤サクラが、心地よい怪演を見せている。
おしゃれライフスタイル雑誌「マレ」の編集部に異動してきたばかりのコーロキ(妻夫木)。慣れない環境でさっそく洗礼を受けるも、懐の広い編集長(松尾スズキ)の支えや、浮き沈みはありながらも始まる、あかり(水原)との恋愛に、俄然やる気は上がっていく。そんな折にコーロキが担当となるライターが、美上ゆう(安藤サクラ)である。
安藤サクラが演じるキャラクターの振れ幅の大きさには、まいど度肝を抜かれる。筆者が彼女の存在を認識したのは、やはり『愛のむきだし』(2009)だろうか。父親から虐待を受けていた少女の純粋さが、新興宗教の中で狂気として花開くさまをエキセントリックに演じ、圧倒的な存在感を示した。『SR サイタマノラッパー2 女子ラッパー☆傷だらけのライム』(2010)では女子ラッパーの1人としてラップを披露し、芸達者な一面を見せる。ヤン・ヨンヒ監督の実体験を基に制作された『かぞくのくに』(2012)では、社会派ドラマへの適応力も発揮。実姉・安藤桃子監督作『0.5ミリ』(2014)では上映尺196分間、介護ヘルパーとしてコミカルに暴れ、『百円の恋』(2014)はダメダメ女子が30歳を超えてボクサーとしてリングに上がる姿を、デ・ニーロばりの驚異の肉体改造をもってして、スクリーン上に叩きつけた。
“映画女優”というイメージの強かった安藤だが、近年はテレビドラマの主役やヒロインまで演じ、すっかりお茶の間の顔に。しかしやはり、エッジの効いたキャラこそ面白い。本作で演じる美上ゆうは、まさにそんなエッジの効いた、愛すべきキャラクターである。
人気コラムニスト・美上ゆうは、大勢のネコと暮らす、感情の起伏の激しいキャラクターだ。原稿遅筆が有名で、挨拶に行ったコーロキは、さっそくその独特な存在感に気圧される。そしてコーロキが初めて依頼した仕事も当然のごとく、締切りに間に合わないというのである。理由は愛猫・ドログバが行方不明になったというもので、電話口でもヒステリックに叫んでいる。ジリジリするコーロキだが、編集長に一喝され、ドログバ探しに参戦するのだ。