『STAR SAND -星砂物語-』インタビュー

吉岡里帆が語る、女優としての今後 「いつかは海外で仕事がしたい」

 大島渚監督作『戦場のメリークリスマス』(1983)で助監督を務めた、米国出身でオーストラリア在住の作家・劇作家・演出家のロジャー・パルバースが、72歳にして初めて挑んだ監督作『STAR SAND -星砂物語-』が8月4日に公開される。パルバース監督が日本語で初めて書いた小説を原作にした本作では、1945年の沖縄で、脱走兵である日本人・岩淵隆康とアメリカ人・ボブに出会った、16歳の少女・梅野洋海が直面する悲劇と、2016年の東京で、洋海の日記を託された大学生・志保の成長が描かれていく。リアルサウンド映画部では、2016年の現代パートの主人公・志保を演じた吉岡里帆にインタビューを行い、彼女にとって初めてとなる海外の監督との撮影の様子や本作にかけた思いから、女優としての今後の目標についても語ってもらった。

「観る人によって捉え方が全然違う作品になっている」

ーー今回の作品はオーストラリア在住、アメリカ出身のロジャー・パルバース監督が手がけた“日豪合作映画”ということで、これまで出演されてきた作品とは少し違った印象があったのでは?

吉岡里帆(以下、吉岡):まず脚本がとても文化的な作品でした。監督が書かれた原作小説もそうなのですが、美しい日本語が羅列されていて、ト書きが多いのが特徴で、ものすごくロマンチックな脚本だったんです。セリフだけで完結してしまえるようなところを、「こういう情景の中で立ってほしい」というような事細かなイメージもすごく丁寧に書かれていて。だから映画になった時に、よくある戦争映画とはまた違う、風合いの優しい、包み込むような透明感のあるロマンチックな戦争映画になるのではないかと感じました。“戦争”という言葉と“ロマンチック”という言葉は相反していますが、決して理想を忘れない、こうありたいという姿をきちんと描いている作品だったので、私自身も非常にやる意義のある作品だと思い、ぜひやりたいですとお答えさせていただいて。監督が外国の方というのもあって、私にとっては新鮮なことの連続でした。

ーー日本人の監督とはまた違う感じというか。

吉岡:でも、監督はものすごい親日家なんです。日本を愛してくださっているからなのか、すごく丁寧で律儀で慈悲深い。だから基本的には意見が合致することが多かったのですが、日本人に対してすごく敬意を持ってくださっている方だったので、「日本人はこうあるべき」というような理想が監督の中にはあって。

ーーそこで意見が衝突することもあった?

吉岡:衝突とまではいかないんですけど、立ち方や話し方、チョイスする言葉などをすごく大事にされていたので、その辺りをどうしていくか、そこは自分の中でもすごく考えましたね。パルバース監督は「僕の思う日本人はそんなお辞儀の仕方はしない」という感じで、「もっと深く」とか「もっと柔らかく」と、お辞儀の仕方や角度まで演出されていたので、その違いは感じました。目に見えない感情の部分は我々役者のことを信頼して、委ねてくれることも多かったですが。

ーー戦闘シーンがなく、直接的に戦争を描いていないのが印象的でした。

吉岡:本当にそうですね。情緒的というか、それぞれの想像にお任せというか。必ずしも現実を見せることだけが平和を願うことではないというメッセージになっていると思うんです。あえて美しい部分を見せることで、戦争さえなければこの人たちはもっと幸せになれたのに……と考えさせられる。そういう意味でも新鮮な戦争映画だと思います。塚本晋也監督の『野火』が本当に素晴らしくて、戦争映画はこうあるべきだと思っていたのですが、パルバース監督と出会って、こんな戦争映画へのアプローチもあるんだと、自分が頭でっかちな考え方をしていたことに気づかされました。なので、観る人によって捉え方が全然違う作品になっていると思います。戦争を経験した方々がどのように受け止めるんだろうとか、日本の映画監督の方々はどう思うんだろうとか、観た人がどのような感想を持つのかがすごく気になりますね。ものの捉え方は人それぞれ違って、何かを悪く言うこともよく言うことも、全部同じラインに立っているなと今回の作品を通して感じたんです。

ーーというと?

吉岡:これまで私は、よく言うことが上で、悪く言うことが下だと決めつけていたんです。バッシングする人は悪だし、褒める人は善というように。でも、この作品を通して、一概にそうとは言えないなと思って。戦争ってそこがテーマじゃないですか。どちらの国も自分が正しいと思って行動をしたが故に争い合っていて、どのサイドに立つかで見え方が本当にガラッと変わってしまう。私も大好きな作品ですが、クリント・イーストウッド監督が『父親たちの星条旗』と『硫黄島からの手紙』でアメリカと日本、両方の視点で戦争を描いたように、今回の作品も善と悪は表裏一体ということを実感できる。特に私が演じた志保は、一歩踏み込めば世界の見え方が変わるというメッセージを担う重要な役なので、そこはすごく考えましたね。

ーー志保は人間や社会にあまり興味がない大学生という役柄ですね。

吉岡:戦争時代の沖縄との対比にもなっている役柄です。生きることすらままならないけど、それでも好きだ、生きたいと叫んでいる女の子がいれば、すべてが満たされているけど、何に対しても無気力みたいな女の子もいる。監督自身は現代の若者をそう見ていて、やりたいことや目標がなく、けだるい感じの女の子になってほしいと言われました。

ーーパッと見てすぐに吉岡さんだとわからないぐらいイメージが違って見えました。

吉岡:確かにビジュアル的に私があまりやらない感じだったと思います。最初、私の中では、もっとしっかり化粧をしていて、ピアスやアクセサリーもつけているような、ちょっとケバいイメージだったんです。衣装合わせをしながらもっと存在感の薄い感じなのかなと突き詰めていって、結果的にああいう感じになりました。あと、海外の不良のイメージと日本の不良のイメージが微妙に違っていて、そのすり合わせも結構大変でしたね。髪型も当日変わったりして(笑)。

ーー最初は違う感じになる予定だったんですか?

吉岡:地毛をすごく短く切ったんですよ。最初はそれこそ「金髪にします」とも言ったんですけど、監督が「日本人は黒髮が美しいから」ということで、黒髮のベリーショートでいこうとなって。なんですけど、当日になって「綺麗にまとまりすぎて大人しそうだな……」と監督がおっしゃって、ヘアメイクさんが持ってきていたウィッグを被ったらそれを監督が気に入って、結局あのウルフカットになりました。

ーーせっかく切った髪は無駄になってしまったんですね。自身の大学時代と志保を比べて、共通する部分はありましたか?

吉岡:私は目標がない学生時代を過ごしていなかったこともあって、ほとんど共通点はないですね。やりたいことがあって大学に行ったし、やりたいことがあって映画作りをしたり小劇場をやったりしていたので、志保のように何に対しても興味を持てない人はちょっと理解に苦しみます。ただひとつ共通点があるとすれば、ぼーっとしている時間が好きなところ(笑)。ただ音楽を聴きながら歩いてリラックスするという感じはすごく共感できますね。

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