異人種間結婚を認めさせた、一組の夫婦の実話ーー『ラビング』が描く“平穏な日常”の背景を読む

「妻を愛していると伝えてくれ」ーー『ラビング』の中心にある愛の物語

 

 残念ながら『The Loving Story』は日本未公開のため、実際のラビング夫妻の姿が映る裁判前夜などの映像を簡単に手に入れることはできない。しかし、『ラビング』の制作にあたってニコルズ監督は、バースキー監督のドキュメンタリー映画をはじめとするラビング夫妻の裁判を語る資料を元に、リチャードとミルドレッドの闘いを丁寧にリサーチし、その大文字の歴史から日常における愛情を取り出した。

 また、リチャード役を演じたジョエル・エドガートンとミルドレッド役を演じたルース・ネッガは、『The Loving Story』の映像やラビング夫妻の写真から、二人の話し方や細かい仕草を習い、それを丁寧に画面に映した。そのおかげで、本作にはセックスシーンが一切ないにもかかわらず、リチャードとミルドレッドの親密さが日常生活の描写で明らかにされている。

 

 たとえば、セントラル・ポイントで楽しい日々を過ごすリチャードとミルドレッドは、人前で大げさに抱き合ったりキスをしたりすることはないが、リチャードがミルドレッドの肩を抱き寄せるシーンが多い。また、家でテレビを観ているリチャードがミルドレッドの膝に頭を乗せるというシーンも観客の目に焼き付くだろう。というのは、リチャードとミルドレッドが自然に身体を寄せ合うのだが、その自然さこそが二人にとって愛し合うことが当たり前だったことを語っていると同時に、禁じられた愛だったことも強調しているからだ。

 1967年に行われた米国連邦最高裁判にラビング夫妻は参加しなかった。それは、内向的でカメラの前で話すのが苦手だったリチャードと、「夫が行かなかったら私も行かない」と主張したミルドレッドの選択だった。そこで、最高裁に「何か言いたいことはあるか」と聞かれたリチャードは、「妻を愛していると伝えてくれ」と答えたそうだ。本作『ラビング』で描かれているのは、まさに大文字の歴史から取り出した人種差別に対するリチャードとミルドレッドの闘いであり、愛する人と「普通」の平穏な生活を送りたいという、誰もが共感できる感情が画面に映し出されているのだ。

■グアリーニ・ レティツィア
南イタリアのバジリカータ州出身で、2011年から日本に滞在。ナポリ東洋大学院で日本文化を勉強してから日本の大学院に入学。現在、博士後期課程で女性作家を中心に日本現代文学を研究しながら、ライターとして活躍中。

■公開情報
『ラビング 愛という名前のふたり』
TOHOシネマズ シャンテほか全国公開中
監督・脚本:ジェフ・ニコルズ
出演:ジョエル・エドガートン、ルース・ネッガ
配給:ギャガ
(c)2016 Big Beach, LLC. All Rights Reserved.
公式サイト:gaga.ne.jp/loving

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