『タンジェリン』ショーン・ベイカー監督が語る、編集の重要性とハリウッドメジャー映画について
「マーベルなどコミックものの監督は絶対にやらない」
ーー今回の作品はあなたにとって長編第5作目となりますが、日本であなたの作品が劇場公開されるのはこの『タンジェリン』が初めてです。アメリカのインディーシーンで活躍されているということもあり、ジョン・カサヴェテスが引き合いに出されることも多いですが、監督自身はどんな作品や監督から影響を受けてきたのでしょうか?
ベイカー:僕にとってはまさにカサヴェテスがNo.1なんだ。自宅の壁に『ハズバンズ』のポスターを飾ってるぐらいだからね(笑)。あとは、僕がニューヨーク大学で映画を学んでいた頃に出会ったマイク・リーや、ケン・ローチなどのイギリスのソーシャル・リアリズムの映画作家たちだね。それに、ラース・フォン・トリアーをはじめとするドグマ95の映画からも影響を受けているよ。世界各国のいろいろな映画を観ているから、各国に必ずひとり影響を受けた監督がいるかもしれないね。最近だと、『フレンチアルプスで起きたこと』などで知られるスウェーデンのリューベン・オストルンドがお気に入りだね。日本の映画監督だと、園子温が好きだよ。溢れるエネルギーと絶対的な狂気が素晴らしいと思う。クラシックな映画や巨匠の作品が好きだと思われることもあるけど、実際は現代のいろいろな作品にも大きな影響を受けているんだ。
ーー最近はインディペンデント出身の監督がハリウッドメジャー映画に挑戦することも増えてきていますが、あなたがそのような映画に挑戦する可能性は?
ベイカー:どうだろう、わからないな……。僕は長いこと低予算のインディーズの世界に身を置いてきたけど、最初の頃は、どこかで一歩外に出て、違うタイプの作品を手がけるイメージも持っていたんだ。ただ今のところ、僕がいる世界はとても居心地がいいからわざわざ離れようとは思わない。それと、ハリウッドメジャー映画に対して僕が最も恐れているのは、監督にファイナルカットが与えられないということだね。あのスコセッシでさえもスタジオからファイナルカットをもらえないんだよ。自分の作品なのにコントロールができないというのは、僕には考えられないことなんだ。とはいえ、最近はスタジオのシステムも変わってきていて、AmazonやNerflixが監督やクリエイターにファイナルカットを与えつつ、自由にやらせるような環境が整ってきている。AmazonもNetflixもそれぞれがスタジオと呼べるほど急成長を遂げているから、それはとてもいい傾向だと思う。ひとつ断言できるのは、マーベルなどのコミックものは絶対にやらないということだね。実は、もともとニューヨーク大学で学ぼうと思ったきっかけは、新しい『ダイ・ハード』を撮りたかったからなんだ。メインストリームの映画もジャンル映画も含め、いろんなタイプの映画が好きだったけど、今はそういう映画を自分で撮りたいとは思わないし、それに対する情熱はなくなってしまったね。とは言え、業界も毎日変動しているから、もしこの質問を1年後に受けたら、まったく違う回答をするかもしれないけどね(笑)。
(取材・文=宮川翔)
■公開情報
『タンジェリン』
渋谷シアター・イメージフォーラムほかにて公開中
監督・共同脚本・共同撮影・編集:ショーン・ベイカー
共同脚本:クリス・バーゴッチ
共同撮影:ラディウム・チャン
製作総指揮:マーク・デュプラス、ジェイ・デュプラス
出演:キタナ・キキ・ロドリゲス、マイヤ・テイラー、カレン・カラグリアン、ミッキー・オヘイガン、アラ・トゥマニアン、ジェームズ・ランソン
配給・宣伝:ミッドシップ
2015年/アメリカ/英語・アルメニア語/88分/カラー/シネスコ/原題:Tangerine
(c)2015 TANGERINE FILMS, LLC ALL RIGHTS RESERVED
公式サイト:www.TangerineFilm.jp