立川シネマシティ・遠山武志の“娯楽の設計”第12回

映画館で映画以外のコンテンツを上映するのはアリ? “ハイパーローカル興行”という鉱脈

 シネマシティでの最近の例を挙げると、音響の強みを活かし、年末に佐野元春さんのライブ映像のソフト発売記念で、ご本人と監督とのトークショー付き【極上音響上映】を行いました。382席の劇場でチケットは即完売。上映前のトーク終了後にすぐに帰られるはずの予定が、劇場での音響を気に入っていただき、佐野さんも監督も最後の最後までファンのみなさんと一緒にご鑑賞されてました。

 この先、2月5日には“minus(ー)”というアーティストのライブ映像上映を行います。こちらも発売後すぐに完売でした。やはりトークライブつき【極音上映】です。

 また音楽モノではありませんが、この前日の2月4日にはアニメ映画『クラッシャージョウ 4Kリマスター』を【極上爆音】、かつ高千穂遙さん、安彦良和監督、竹村拓さん、佐々木るんさんのトークショーつきで上映。やはりこちらも発売後最大劇場がすでに即完売済です。

 いずれも1回だけ、シネマシティだけでの上映です。まさにハイパーローカル興行。行う我々もたった1回ですから熱がこもりますし、熱心なファンが集中しますから、劇場内の空気が違います。愛が充ち満ちます。もし10回、あるいは10カ所で上映したら、お客様は分散して劇場には空席が目立つでしょう。その分、収益は大きくなるかも知れませんが、ある種の“熱”は確実に下がります。ハイパーローカル興行の魅力は“熱”にありますから、このバランスが肝になります。

 “熱”こそが特別な“場”を生み出すのです。“場”での“熱”の共有こそが、ファンを感動させます。忘れられない体験になります。そしてそれは“次”につながります。その映画やミュージシャンだけでなく、映画館自体のファンにもなってもらうのです。広く上映している作品よりも、ハイパーローカル興行には、そのチャンスが大きくあります。

 正直、多くは単発イベントになるものを収益の柱にするのはなかなか難しいです。準備なども普通に映画を上映することの何倍も掛かりますから、効率は良くないかも知れません。なにより企画力と段取り力が要求されます。ですが、映画ファンだけでない多様な集客が出来るようになれば、必ずメリットがあります。閑散期にも集客できる可能性が生まれます。その内の何割かの方を映画ファンにすることも出来るかもしれません。

 映画館スタッフが自らもエンタテイメントを創り出していく。そこまで踏み込んでいかなければならない段階に来ていると感じます。映画館というビジネスは大きく変わっていきつつあります。

 映画館を、手にしたデジタルの自由を存分に活かした場所に。できることは、まだまだ星の数ほどあります。You ain't heard nothin' yet !(お楽しみはこれからだ)

(文=遠山武志)

■立川シネマシティ
映画館らしくない遊び心のある空間を目指し、最高のクリエイターが集結し完成させた映画館。音響・音質にこだわっており、「極上音響上映」「極上爆音上映」は多くの映画ファンの支持を得ている。

■公開情報
『映画 みうらじゅん&いとうせいこう 20th anniversary ザ・スライドショーがやって来る!「レジェンド仲良し」の秘密』
2017年2月18日(土)新宿ピカデリー他全国ロードショー
出演:Rock'n Roll Sliders[みうらじゅん・いとうせいこう・スライ]
監修:みうらじゅん/いとうせいこう
構成:おぐらりゅうじ
監督:伏原正康
製作:WOWOW
配給:日活/WOWOW
公式Facebook : https://www.facebook.com/slideshow0218
Youtube(予告動画) : https://youtu.be/cfHyZ2FyIO8
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