「自選シリーズ 現代日本の映画監督5 押井守」トークショー
押井守、“映画”と“女”への愛を語り尽くす 「いまは女優さんしか撮りたくない」
『ビューティフル・ドリーマー』——「決まったフレームが存在しない」
そしてトーク時間も残り少なくなってきたタイミングで、話題は押井監督の出世作『うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー』へ。ただし本作の逸話についてはこれまでもさんざん語られたということで、この日は別の角度からのエピソードが提供された。
「『ビューティフル・ドリーマー』には決まったフレームが無い」「映画館で公開するにはビスタサイズにする必要があるわけですけど、当時(1980年代前半)のテレビアニメの現場にはビスタサイズ用の作画用紙が存在しなかった」「だから原版上はスタンダードサイズ(1.33:1、つまり4:3)で作画・撮影して、映画館で上映する時に上下を切ったビスタサイズにしていた。僕らは“二重フレーム”と呼んでいたけど」「なおかつ、小屋(映画館)によって、切るフレームがみんな違う。上下を切るか左右を切るか、いわば小屋に任されている」
ビスタサイズには1.66:1のヨーロッパビスタと1.85:1のアメリカンビスタ、そしてその中間である1.78:1(16:9)のハイビジョン放送用のビスタ、といった種類がある。これらのどれが採用されるかでもフレームが違ってくるし、さらに原版フィルムの段階でも違っていると押井監督は続ける。
「アニメの撮影台でビスタサイズに撮影したい時は、アパチャーという部分にカードを入れて、物理的にマスクして撮影するんです。ところがそのカードは撮影台によって全部サイズが異なっている」「だからフルフレームで上映すると、カットごとに全部サイズが変わっています。特に上下が全部違います。驚くべきことですけども、なぜ誰も気がつかないかといったら、映画館やビデオソフトではトリミングされているから。原版はガタガタになっています」
また、こういった事情はアニメだけではなく実写映画にも見られるという。
「現場では“バレモノ”と呼ばれているけど、上部にマイクとか、照明の羽根とか、床にコードが走っていたり、映っちゃいけないものがカメラに入っちゃう時がある。ひどい場合にはスタッフがボーっと突っ立っているのが映っていたりね。今だったらデジタルで消して後始末するわけですけど」「『紅い眼鏡』(1987)の時は、たいへんスケジュールがキツい作品だったので、とにかくバレモノが映り放題。フルフレームで観ると、とんでもない世界になっている。僕は一回観て仰天しました」「映画の物理的な側面というのは、お客さんにとってはどうでもいいことなのかもしれないけど、監督にとっては、たいへんにシビアな問題でもあるんですよ」「映画のフレームって世界共通だと思ったら大間違い」
と、ここまで語られたところで時間切れ。作品個々の裏話的なエピソードや押井監督が抱えるテーマ、映画の本質に関わってくるフレームの問題など、様々な話題を撒き散らしてトークイベントは終了した。
「自選シリーズ 現代日本の映画監督5 押井守」は今月22日まで開催中。21日にはトークイベントの第2弾も予定されており、また興味深い話が飛び出すことは間違いないだろう。
(取材・文=ピロスエ)
■イベント情報
「自選シリーズ 現代日本の映画監督5 押井守」
1月10日〜22日まで、京橋・東京国立近代美術館フィルムセンターで開催中
公式サイト:http://www.momat.go.jp/fc/exhibition/oshii-2017-1/