『スター・ウォーズ』公開40年、アメリカはどう変化した? サエキけんぞうの『ローグ・ワン』評

 アジア性を代表するキャラクターには、修行僧のように棒一本で闘う、香港のアクションスター、ドニー・イェンが演じるチアルートがいる。盲目という設定は、なかなかに大げさであるが、密教の秘術でも扱うかのように銃撃戦の中で落ち着いてふるまい、光線を避け、棒一本で敵をぶちのめし、信じられない技を繰り出す姿は、見ていて爽快である。シリーズの新機軸であり、今回の白眉といっていいだろう。

 そして戦いのシーンも海辺やジャングルが突然の爆撃で戦地に変貌するところは、中東やベトナムを彷彿とさせ、思わずあのベトナム戦争映画の先駆『地獄の黙示録』のディレクターズカット版も彷彿とさせる混沌としたリアルさも備えている。戦闘シーンについては、演技を実況的に撮っていった手法や、大胆な撮り直しを行なわれたことなど、様々な苦心が伝わってきた。

 先端の技術として感心させられるのは、タワーの上端などの俯瞰シーンで、背景となる遠景を異様なリアルさで映し込むテクニック。しかもそれが惜しげもなく瞬間的な描写だったりするので目が離せない。戦闘のクライマックスはまさにハリウッドならではの必見映像の秒刻みとなる。

 それらの映像は、コンピュータグラフィックスによってもたらされている面が大だと思う。現実的な情景を描いている映画でのCG使用はどこか興ざめな部分があるが、スター・ウォーズのようなオトギ話的な物語では、CGが使われていることがマイナスにならない。どこかノスタルジックで寓話的な仕上がりがいい。その興奮が頂点に達するのはラストで、その崩壊情景は今まで味わったことのない規模感覚、深みを持っている。

 『オデッセイ』や日本の『シン・ゴジラ』などSF映画は、進化を止めないが、本作もそれらに負けず、新しい感慨をもたらしてくれる。ラストに現れる例の登場人物の美貌に「おお? どうやって元通りの顔に?」と驚いたままの頭で、1977年の第一作を続けて見たら、どんなタイムトリップが待っているのか楽しみである。

■サエキけんぞう
ミュージシャン・作詞家・プロデューサー。1958年7月28日、千葉県出身。千葉県市川市在住。1985年徳島大学歯学部卒。大学在学中に『ハルメンズの近代体操』(1980年)でミュージシャンとしてデビュー。1983年「パール兄弟」を結成し、『未来はパール』で再デビュー。沢田研二、小泉今日子、モーニング娘。など、多数のアーティストに提供しているほか、アニメ作品のテーマ曲も多く手がける。大衆音楽(ロック・ポップス)を中心とした現代カルチャー全般、特に映画、マンガ、ファッション、クラブ・カルチャーなどに詳しく、新聞、雑誌などのメディアを中心に執筆も手がける。

■公開情報
『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』
全国公開中
監督:ギャレス・エドワーズ
製作:キャスリーン・ケネディ
出演:フェリシティ・ジョーンズ、ディエゴ・ルナ、ベン・メンデルソーン、ドニー・イェン、チアン・ウェン、フォレスト・ウィテカー、マッツ・ミケルセン、アラン・テュディック、リズ・アーメッド
原題:ROGUE ONE A STAR WARS STORY
配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン
(c)2016 Lucasfilm Ltd. All Rights Reserved.
公式サイト:http://starwars.disney.co.jp/movie/r1

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