中国4大女優、シュー・ジンレイの品格と知性 大塚シノブが『あの場所で君を待ってる』を観る

 徐姐(シュー姉さん)は、相変わらずスゴい女性だなと思う。中国映画『あの場所で君を待ってる』の監督であり、主演の一人も務めるシュー・ジンレイのことである。シュー・ジンレイは日本での知名度はあまり高くはないが、チャン・ツィーイー、ヴィッキー・チャオ、ジョー・シュンらと並ぶ中国4大女優の一人であり、ブログの女王とも呼ばれる、中国では誰もが知る非常に有名な女優である。そして42歳という若さで、すでに6作もの映画を撮っている映画監督でもある。

 実はシュー姉さんは、私が中国で良くしていただいた内の一人で、とても尊敬する女性でもある。プライベートな付き合いであるが、自宅に呼んでいただいたり、食事をしたり、カラオケに行ったり。日本に来た時、私が銀座をアテンドしたこともあった。大女優でありながら飾り気もなく自然体。自宅には本がぎっしり詰まった一面の大きな本棚に、一つ一つ選んで置かれたセンスのいい骨董家具。その本棚から一冊、中国語の小説もいただいた。芸術家気質で勉強家、聡明な女性。私が胃の調子のよくないことを知ると、胃カメラの予約を取ってくれようとしたり、何人かで一緒にいる時には、帰り時間のことまでも気にかけてくれたりもする。気遣いもできる、物腰の柔らかい優しい人である。男性を含めた数人で食事に行っても、さらっとお会計までしてくれる男前ぶり。それはそれで大物は大変だなと思ったけれど。

 私が当時、演技と並行して監督の勉強をしていたことを知り、自身が監督する映画の撮影現場に呼んでくれたこともあった。「監督もやりたいんでしょ? ここに座って勉強したらいいよ」と、彼女が座る監督チェアに惜しげもなく私を座らせ、撮影の説明もしてくれた。なんて懐の深い人なのだと、その粋な計らいに感謝した。自身の監督する作品に自身が出演するというのが、シュー・ジンレイ作品の恒例だが、監督から演者へ演者から監督へと、撮っては出て、出ては撮るを繰り返す。映画撮影に没頭するその姿はプロそのもので、現場を束ね、とても器用でもあった。

 私は結構、人の言動や感情に敏感な方であるが、彼女には驕りも嫌味も一切感じたことがない。今まで女優のみならず、様々な著名な方や地位のある方にもお会いしてきたが、人間としてこうも心から尊敬申し上げたいと思った女性は、シュー姉さんが初めてだったかもしれない。特に女性同士の場合、嫉妬というのか威圧感というのか、多少なりとも感じる瞬間が正直ないわけではない、友人間でさえも。中国人だから寛大なのか、ってそんなわけでもない。ここまでのレベルになると余裕というのか、人間としての成熟度が違うのかもしれないと思い知らされ、こんな人間になりたいと思った。

 子供とか男性に対する母性とはまた違う、人を包み込むような母性のようなものがある、そうも感じた。「私は痛みに弱いから、多分子供は生まないと思う」とシュー姉さんは言っていたが、予言通りというか、いまだ出産はしておらず、その愛情を今も変わらず映画に注ぎ続けている。個人的には、私は彼女のような生き方は素敵だと思うし、シュー姉さんにはそれが似合うような気がする。

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