新『ゴーストバスターズ』が娯楽映画として成功した理由 性別を乗り越えたリブートの真価を読む
なかでも代表作といえる、本作のクリステン・ウィグとメリッサ・マッカーシーが出演するコメディー映画『ブライズメイズ 史上最悪のウェディングプラン』は、とにかく衝撃的だった。この作品には、花嫁と親友たちが結婚式のドレスを試着するシーンで、全員に食中毒の症状が発生し、突然の嘔吐と下痢で、上品な店が大変なことになってしまうという、とんでもない展開があるのだ。花嫁に至っては、店の外に出て純白のウェディングドレスを着たまま、車が往来する路上の真ん中で粗相をしてしまう。
私は、女性向けの娯楽作品という枠を飛び出す、この下品極まりないシーンに絶句しあきれながらも、もはや性別がどうとかジャンルがどうとかを超越した描写に、「ああ、いま映画の歴史が変わったんだ…!」と実感したのである。『ゴーストバスターズ』が伝説的な存在であるならば、ポール・フェイグ監督や、メリッサ・マッカーシーなど女性出演者たちが達成したこの偉業も、紛れもない伝説である。
本作『ゴーストバスターズ』でとくに最高なのは、『マイティ・ソー』でスーパーヒーローを演じるクリス・ヘムズワースが、女性たちが結成した「ゴーストバスターズ 」の事務所で、受付係を演じているところである。この受付係が、信じがたいほどに無能なのだ。どのくらい無能なのかというと、仕事中に彼が淹れたコーヒーについて、「それ、砂糖入ってる?」と訊かれると、カップのコーヒーを直接、口に含んで確かめ、またカップに吐き出して渡すくらい無能なのである。クリステン・ウィグが演じるバスターズの一人エリンは、彼に恋愛感情を持っているため、吐き出したコーヒーを見て「私…これ飲むわ」と言い出す。このポール・フェイグ監督の持ち味が発揮された描写は、ほとんど感動的ですらある。
この男性受付係は、「無能」という二字をそのまま実体化したキャラクターであるにも関わらず、「見た目がセクシーだから」という一点の長所のみで雇われている。これは、いまも継続されている、男性が女性に対して「女なんてかわいければいい」という意識そのものであり、まさに今回の女性キャストにぶつけられた偏見を逆転させて皮肉っているような、痛快な構図を作り出している。その意味においても、本作はナンセンスななかに、進歩的で知性的なユーモアを隠しているといえよう。
そのようなギャグ描写では間抜けな姿を見せていた四人だけに、彼女たちがゴーストを次々に退治していく、本作のギャップを感じるアクション・シーンは、とてつもなくかっこいい。そして、伝説的作品『ブライズメイズ 史上最悪のウェディングプラン』で友情を深める役を演じていた、クリステン・ウィグとメリッサ・マッカーシーの二人が、今回は幼い頃からの親友役として、危機に陥った一方をゴーストから救い出そうと命を懸ける演技に、目頭を熱くさせられるのである。
■小野寺系(k.onodera)
映画評論家。映画仙人を目指し、作品に合わせ様々な角度から深く映画を語る。やくざ映画上映館にひとり置き去りにされた幼少時代を持つ。Twitter/映画批評サイト
■公開情報
『ゴーストバスターズ』
8月11日(木・祝)~14日(日)先行公開
8月19日(金)全国公開
監督:ポール・フェイグ
製作:アイヴァン・ライトマン
出演:クリステン・ウィグ、メリッサ・マッカーシー、ケイト・マッキノン、レスリー・ジョーンズ、クリス・ヘムズワース
配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
公式サイト:GHOSTBUSTERS.JP