月9ドラマは電気羊の夢を見るか? 『好きな人がいること』の楽しみ方を指南

 昨年7月期に放送された『恋仲』は、放送当時はフジテレビ月9初回最低視聴率を更新したことが大々的に報じられたりもしたが、SNSにおける視聴者の勝手な盛り上がり、「君がくれた夏」(家入レオ)のドラマ主題歌としては近年最大級のヒット、そして何よりも月9に新しい風を吹かせたという点において、一定の成果を残したとジャッジされたのだろう。あれからちょうど1年。プロデューサーは藤野良太、メイン演出家は金井鉱、脚本は桑村さや香という『恋仲』とまったく同じ座組によって、新ドラマ『好きな人がいること』が先週月曜日から始まった。

 『恋仲』が「月9に新しい風を吹かせた」というと、ポジティブに響くかもしれないが、そこには非常にアンビバレントな意味合いがある。80年代後半の月9ドラマ、具体的に言うなら『君の瞳をタイホする!』や『君が嘘をついた』や『君の瞳に恋してる!』を発火点とするトレンディドラマ・ブーム以降、日本で恋愛モノの流行を牽引してきたのはずっとテレビドラマだった。そして、90年代後半の(これは月9ドラマではないが)『踊る大捜査線』映画版の大ヒット以降、日本映画界全体の流行をフジテレビが牽引していくことになる。そんな時代をまったく知らない10代からの支持によって急速に勢力を伸ばしている昨今の(主に少女マンガを原作とする)ティーンムービーを象徴するキャスト、脚本家を臆面なく招集して制作された『恋仲』は、長年のテレビと映画とのパワーバランスにおける、決定的なターニングポイントとなった作品だった。わかりやすく言うなら、テレビドラマが日本映画の流行を追うようになったのだ。

 その傾向は、『好きな人がいること』においてさらに加速している。昨年サプライズヒットとなった『ヒロイン失格』から桐谷美玲&山崎賢人の主演コンビをそのまま移植。テーマははっきりと、今年のティーンムービー界を席巻しているドS系男子モノ。企画書レベルにおいては、わかりやす過ぎるほどわかりやすいそんな明確な方向性は、しかし、『恋仲』の続編的な作品をぼんやりと期待していた自分にとって、ちょっと面喰らうしかない作品となっていた。

 以前、本サイトの連載で菊地成孔氏も的確に指摘していたように、「夏に花火を見てキスする。キュン死でしょ」という原動力だけで登場人物たちが動いていた『恋仲』は、その徹底した「空虚さ」によって、図らずも日本文化全般への鋭利な批評たりえていた。物語の枠組としてだけ、昨今のティーンムービー的なる世界を用意して、そこで全9話にわたって脚本家や役者たちに言わば放置プレイをしてみせたような『恋仲』は、主演の本田翼の所在なさげなたたずまいと相まって、視聴者に不思議なエモーションを喚起させる作品だった。

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