『リル・ウェイン・ザ・カーター』インタビュー

D.Oが語る、ラッパーの生き様とショービズの裏側ーーリル・ウェインの“超問題作”をどう見るか?

「サウスから世界に通用するスタイルを築いた」

 

ーーリル・ウェイン自身についても聞かせてください。彼は劇中でも地元・ニューオーリンズについて語っていますね。

D.O:地元=フッドにラブを持って還元していくのが、本筋のヒップホップのスタイルで、世界中にそのシーンがあります。東海岸と西海岸は特に大きなシーンだけど、リル・ウェインはサウスーー南側の田舎町で、かつて黒人たちが奴隷制度に苦しんでいた土地で生まれ育ったんですね。それがいまや世界中の人間が群がって、お金を使って彼らをミリオネアにしているのだから、歴史的にも地理的にもとんでもないことを、ヒップホップで成し遂げたんです。南部からは以前も、アウトキャストとかが出てきているけれど、キャッシュ・マネー・レコードの一番最初の塊、ホットボーイズって名乗っていた連中が、間違いなくサウスのオリジナルですよ。ベイビーやマニー・フレッシュがビートを作って、ブラッズの一員になって、自分たちのシーンを固めて叩き上げてきた。そしてリル・ウェインを育てて、ハリウッドにも通用するどころか、世界中に通用するスタイルを築いた。Dr. ドレーでもジェイ・Zでもなく、ノトーリアス・B.I.G.でも2PACでもなく、サウスのパワーでやってきた。リル・ウェインは『カーターIII』で、ジェイ・Zをフィーチャリングで迎えるんですけれど、ビジネス的な臭いはぜんぜん無くて、ビギーとパックの次は、俺とお前だろう?って煽るんです。そういうところが超ヒップホップで、大好きな理由なんですよ。

ーーフッドをレペゼンする姿勢に、共感するところも多かったのでは。

D.O:2000年になるかならないかの頃、僕はちょうど雷家族を手伝い始めていて、そのときに南部のスタイルが新しいヒップホップの波としてきていたので、タイミング的にも受けた影響は大きかったですね。彼らはニューオーリンズって田舎にいながら、世界に通じる最先端のヒップホップのスタイルを持っているわけで、それがすげえなって。六本木や渋谷、新宿がおしゃれにやっているなか、僕のフッドの練馬は、牛や豚がいて畑もある田舎だったから、余計にね。

ーーすでに盛り上がっているシーンに対抗しようと考えたとき、どういう点に一番こだわりましたか。

D.O:日本だと、渋谷、新宿、六本木に日本のシーンが詰まっていて、それに対して自分たちのスタイルを対等に、もしくはそれ以上に見せようと考えたとき、どういう風に切り込んで、どんなパフォーマンスをするかは、すごく練りましたね。新宿や渋谷で生き残っている奴とは別の方法を編み出さなければいけなくて、なおかつフッドをレペゼンしながらやっていくというのは、本当に、簡単なことではないです。比べるのは恐れ多いけれど、リル・ウェインだって、西海岸や東海岸で確立されたスタイルに対して、サウスをレペゼンしながらどう戦っていくかはめちゃくちゃ考えたはず。だから、ものすごい共感できるんですよ。フッドを意識しながらサヴァイヴしていくためには、自分のスタイルやアートにいっそう磨きをかけなければいけないし、そこに離れた土地でやっていく意味がある。だから、俺のなかではわかるポイントがいっぱいあるんだよね、リル・ウェインに対しては。15年くらい前にTWIGYがとある学園祭のライブに連れて行ってくれたときに、ニューオリンズに留学していた女の子が手紙をくれて。その手紙には、向こうでヒップホップをやっている連中から「お前のこと知っているよ、俺らのこと意識してんだろ? 俺もお前のこと好きだよ」みたいなメッセージが書いてあったんです。そういうこともあって、勝手に近い存在だと思ってきたから。

ーーニューオーリンズと練馬の間にも、繋がりがあると。

D.O:知らないひとはみんなびっくりするけれど、ヒップホップにはいつもミラクルがたくさん起こっていて、本当に世界中で繋がっているから。だからこそ、僕もいま新宿を語り続けたとんでもない妖怪たちと合流して、一緒にやっているわけで。2016年のいまも、ヒップホップはでかくなり続けていて、その根本にはフッドへのラブがある。自分たちの根っことする部分を常に持ちながら、仲間がいて、家族がいて、その全部のライフをヒップホップにする。リル・ウェインはニューオリンズを語ったし、ビギーはブルックリンを、パックはオークランドを、N.W.A.はコンプトンを語っている。みんなフッドがあって、それを語るからこそ、リスペクトし合えるんですよ。だから僕は、いまも練馬を語らせてもらっていて。

ーー日本のヒップホップシーンも、最近はさらに盛り上がっている印象です。リル・ウェインがサウスからのし上がってきたように、国内産のヒップホップももっと世界中で聞かれるようになってほしいですね。

D.O:日本のシーンはもっとでかくしていきたいし、その役目と責任はあると思っています。ひとつひとつのことは小さいかもしれないけれど、確実に前に進んでいるし、僕らもアジアから世界に証明できるヒップホップをメイクしていこうと。それはちゃんと、動きで証明していくつもりです。

(取材・文=松田広宣)

「リル・ウェイン ザ・カーター」DVD予告編

■リリース情報
『リル・ウェイン ザ・カーター』
発売中
価格:¥3,800円+税

<特典映像>
オリジナル予告編

発売元:トランスワールドアソシエイツ
販売元:ポニーキャニオン
(C)2009 QD3 Entertainment

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