菊地成孔の欧米休憩タイム〜アルファヴェットを使わない国々の映画批評〜 第6回(後編)

菊地成孔の『アイアムアヒーロー』評:「原作を読まなきゃな」と思わせるんだけど、それが失敗なのか成功なのか誰か教えて。

今回「低リテラシー」記録更新

 当連載はそもそも、「門外漢として、低リテラシー(対象のことを知らないこと)を前提にする」のと、「アルファベットを使わない国々の映画だけを取り上げる(これもまあ、「低リテラシー」の親戚みたいなものですけど)」という、我ながらなかなか洒落てるな、と自惚れるほどの2大コンセプトに支えられてるんですけど、やっているうちに

1)「筆者は韓国カルチャーにそこそこ詳しく、日本のことは何にも知らない」

 そして

2)「多くの閲覧者は韓国映画にはあんま興味がない」

 という、恐るべき事実が露わになってしまい、どうしよっかなー。キリル文字はアルファベットだっけ? でも、キリル文字使用の国の映画ってあったかな? もうこの際、韓国映画専門の不人気コーナー(韓映画ペンの皆さんスミマセン。でも、あの『インサイダーズ/内部者たち』でさえ、閲覧数が、、、、、ううううう)にしてしまえ。或いは、テーブル全部ひっくり返して、得意なのだけやろう! は!、、、、、、でもそれって、いつもやってる普通の映画評じゃないか、、、、。

 などと、頭を抱えて部屋をゴロゴロ回転しながら煩悶を繰り返していたのですが、

 ついにこの日がやってまいりました!!

 これまでの連載を通じて、飛び抜けてワタシのリテラシーが低いーー読み解き方も、醍醐味も、マッピングの中の位置固定も、何もかもわからないーーー言うなれば宇宙から来た映画なのですが、にもかかわらず、一般的な評価も興収ももかなり高そうなのです(試写会でなく、近所のシネコンで見たけど、パンパンに入ってたしね)

 そしてその宇宙映画は、かなり日本映画に似ており、登場人物が全員、日本語を話すのは言うまでもなく、大泉洋さんが主役だわ、有村カスミンが主役だわ、出てくる俳優さんをほとんど総て知っている上に、後述しますが、途中で間違いなく、はっきりと韓国が出てくるので、もう新鮮さがハンパありません。

 というわけで、「お前が宇宙人だろう」と言われるほどの、ワタシのものの知らなさを列記させてください。

全く知らないこと1 VFXの水準

 まずワタシは、本作のVFXのレヴェルが、「驚くべき水準のもの」なのか、「まあ、凄いは凄いけど、アベレージっしょ」ぐらいなのかどうかすら、全く判断できないのです(日本映画観ないから)。

 『アイアムアヒーロー』は『神様の言う通り』と(『大日本人』の続編である)『進撃の巨人』と、『テラフォーマーズ』と『寄生獣』とは「全然ちげえ」のかも知れないし、「だいたい同じぐらい」なのかもしれないし、「あれは誰々さんの特撮で、あれは誰々さんだから、技術系等が別というべきでしょうかね」とかいうのも、ありそう絶対。

えーと、なんか長くなりそうな予感がするので(笑)、最初に結論を書いてしまうならば

 とはいえ「ありそう絶対」とか言ってる場合ではないので(笑)先に結論を申し上げますと、本作は、あくまでワタシにとって、大変に面白く、つまり娯楽映画として2時間7分はあっという間で、生理的にキツすぎる部分もなく(血糊嫌いな方なのに)、先ほどの推測に戻りますが、VSFの水準もなかなか高いと推察され(推察ですけどね)、後述しますが、韓国の技術を使った手作りスタントも大変な迫力で、特に文句はありません。

 しかし、同時に、映画開始からものの10分から最後まで途切れることなく、ワタシはこう思っていました「これって、原作読まないと色々分からないだろうし、とはいえ、読むかと言われれば、読まない気がする。何せ<読んでなくちゃわかんないよ>といった、仲間内的バイブスがあんまなかったから。それでもでも原作読まなきゃわかんねー。と思い続けちゃった。うう苦しい。それって、シンプルにいって、どうなのだろうか? このアンビバレンツ」

全く知らないこと2 ゾンビもの

 「ゾンビもの」がジャンルムーヴィーとして、世界中で作られ続け、更新されているのは、風の噂では知っています。ゾンビの演技って、実のところ簡単だもんね。ハロウィンとかみればわかる。

 しかし、ワタシが観ているのは、原典であるロメロの「ゾンビ」ただ1本です(後はマイケル・ジャクソン「スリラー」のMV)。

 そしてロメロ版が「原典」というよりも「中興の祖」と言う方がいくらか厳密であることも、なんとなあく知ってはいますし、何せ「ロメロのゾンビ」は、自分のオールタイムベストに入れて良いと思うほど感動し、ガチで100回ぐらい観ました。

 とはいえこれは「宇宙を舞台にしたヒーローものを<スターウォーズ>の1作目しか観ていない。すげえ好きで、100回ぐらい観たかな。なんかずっと続いてるみたいね。今回<アベンジャーズなんとかかんとか>っていうの観たんだけどさあ」と言っているようなものですよね。

全く知らないこと3 漫画原作(ここが一番重要)

 おいおいそりゃねえよー。と言われそうですが、本当なんだからしょうがない。「小説原作」なら慣れてますよ。<現在も連載中の、長期連載作品の一部、あるいは初回から現在までの駆け足ダイジェスト>という事にさえ。これは山ほど観たし、言うまでもないが、成功作も失敗作もありました。

 ところが「漫画原作の日本映画」という、今や圧倒的多数派と言っても良いセクトの作品をちゃんと観たのは、指折り数えて10本には満たない(テレビドラマも含む)。うち、『るろうに剣心』『ちはやふる』のような、素晴らしい作品もあり、そして両作に共通しているのは「原作読まなきゃ」という感想を全く抱かなかった。という事で、そこが本作との大きな違いです。

 別に漫画が嫌いなのではない、読めれば読みたいし、日本が世界に誇る、傑出したイマジネーションと表現技術を持っている事も、知ってはいるのです。『寄生獣』も『GANTZ』も、1巻の途中ぐらい読んで(コンビニにあったから)、「うっわ。ものすげえイマジネーション!! やっぱ日本はマンガだよな!!」とか思っても、気がつくと星占いとか読んでるんですよ。体が受けつけない。勿体無いとは思ってます。

 漫画/アニメは今やインターナショナルカルチャーだから、つまりハンバーガーとか寿司とかと同じで、アフリカ以外の国なら、どこだって消費されていると思われている(漫画/アニメは、何とアフリカがこれから「バンバン買い付けますよー」と言い始めている所なんだから!! それを、安倍さんと麻生さんがハンドリングするんだから!!)。しかし、日本にだって漫画を読まないワタシの様な奴はいるし、アメリカにだってハンバーガー喰わない奴はいるでしょう。そんな、宇宙人の視線で映画を観てみた。というレポートです。

完全な余談(またしても韓流・笑・お嫌いな方は飛ばして、、、いや、むしろお嫌いな方ほど読んでください)

 と、ワクワクして来た所でいきなり話し逸れますが、韓国では、映画やテレビドラマがヒットすると、欧米における「映画のノヴェライズ」のように、「漫画化」が起こります。

 その際、どんな感じになると思いますか? なんと、「登場人物の顔写真の下に絵を描く」のです。チャン・グンソクの顔写真の下に、なんていうかな、逆アイコラ。みたいに、絵が書いてあるの(笑)。信じられる?(笑)でも本当なんだからしょうがない(因みに、最近はどうなのか知りません)。

 失礼、本筋に戻りますね。

全く知らないこと4 そもそも日本映画(もう、「ここ重要」とか、そういう問題じゃない)

 「もうお前、黙ってろよ日本映画については!!(片手に包丁)」と、気も狂わんばかりに怒る方もいらっしゃるでしょう、でもしょうがない。この企画をリアルサウンドが面白がっちゃったんだから(笑)。

 テレビはほぼ24時間つけっぱなしのワタシですが、「日本映画」は、1960年代をピークにどんどん減って行き、現在は何と、「この連載の為&自分が音楽監督をやった作品しか観ない(テレビ番組/ドラマはすんげえ観ます)」という、言わばゼロ状況です。

 とさて今回も、恒例前置きが長くなりましたが(笑)、早速、「これぞ低リテラシーの目線」といった、ローリテラリストの代表として頑張ります。

 因みに、もうこの際なので、徹底のため、劇場用パンフも買っていません(勿論、ググリも無しです。ググれないからですけど・笑)。事実誤認等々、間違いの類いはボコボコに叩いてくださって結構です。

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